電力会社の送電網に負担をかけない「デジタルグリッド」の技術開発および標準化の推進を行うコンソーシアム「デジタルグリッドコンソーシアム(dGridコンソーシアム)」は12月12日、東京都文京区に研究センターを開設し、活動を開始したことを発表した。

デジタルグリッドは、同コンソーシアムの代表理事でもある東京大学大学院 工学系研究科の阿部力也 特任教授が発案したコンセプト。環境調和性の高い自然エネルギーの導入と、基幹系統と協調することによる発電と消費が常に一致する必要があった従来の電力系統への貯蔵機能の導入、そして電力用ルータやコントローラにより自在に電力潮流をコントロールすることで、電力問題の解決などを図ろうというもの。

これまでのスマートグリッドや分散型電源などは、電力会社の電力系統に直接つないで電力の過不足を調整していたが、それでは出力が不安定な再生可能エネルギーを受け入れるには送電設備や調整電源の強化などの投資が必要となっていた。

これに対し、デジタルグリッドは、従来の電力会社の基幹系統を幹とすると、それに接続する大中小の配電網を葉の部分(セル)とみなし、接続部にルータを置いて間接的(非同期)に接続することで、出力の不安定な再生可能エネルギーをセルで貯蔵し、基幹系統との間で必要な時に必要な量を相互融通しようというもので、必要に応じて中小規模の投資によるセルの増加が可能だという。

デジタルグリッドのイメージ

また、ICT技術を活用することで、電力を指定したアドレスのルータ間で融通できることからインターネットのような電力システムを構築することができ、かつ電力インフラが今後整備されていく新興国でも、地域単位で導入されたグリッドを非同期に連係させ、互いに協調させながら、新しい電源や再生可能エネルギーの導入をスムーズに行うことができるため、それぞれの地域特性に合わせてグローバルに技術やサービスを広げることができるという。

阿部氏は「デジタルグリッド」という名前について、「スマートグリッドの次にくるような世界を、ということで付けた」とし、電力会社の送電網に負担をかけずに再生エネルギーを活用していく方法となることを強調する。「標準化を進めるためには多くの企業に参加してもらう必要がある。すでに1号案件についてはオリックス、NEC、日本ナショナル・インスツルメンツの3社が参加を表明しているほか、通信事業者、重電機器メーカー、ハウジングメーカーの3社が参加に向けた検討をしている」とするほか、「アドバイザリとして、東北大学の豊田淳一名誉教授、慶應義塾大学 政策・メディア研究科特任教授である高橋秀明氏、東京大学生産技術研究所の合原一幸教授(手続き中)のほか、スマートグリッドの標準化を進めている米国電力研究所(ERPI)でスマートグリッドを見ているMark McGranaghan氏(Vice President,Power Delivery and Utilization)やDavid Eskinazi氏(Account Executive)などにも参画してもらっており、EPRIでの実証実験を含めて、グローバルスタンダードを最初から目指す」とする。

コンソーシアムを形成することで、トータルな成果創出を目指す

本格的な活動は2012年度以降になるが、1号案件は「電力ルータの定義」、2号案件は「ブーストハウス」、そして3号案件として「ブーストコミュニティ」を予定している。電力ルータに関しては、2012年の秋ごろにEPRIでのデモを目指すとするほか、ブーストハウスについては2012年の5~6月ころからの開始を予定しており、ブーストコミュニティまで含めて、2014年には10万kW程度の電力融通、そして2016年での70万kW程度の(有効電力としての)電力融通およびアンシラリーサービスを目指すとしている。

コンソーシアムにおける開発プログラムのスケジュール

電力ルータを用いると何ができるようになるのか。家庭やビル、商業施設、町内、市区町村、都道府県などの単位ごとに電力をルータでやり取りすることで、それぞれが柔軟なグリッド構造となり、電力が不足したときは別のセルから融通したり、過剰な時は貯蔵もしくは不足したセルへと融通する、もちろん電力会社からの基幹電力とも協調することで、電力の有効活用が可能になる。また、1秒間に2万回のルーティングを行っており、もしセル内で停電が生じた場合、ルータ側で外部への電力遮断を実施することで停電の連鎖を妨げることが可能となる。「すでに日本は北海道と東日本が直流連携で、東日本と西日本が60Hzと50Hzでそれぞれ自律してセルが構築されている。米国もすでに3つのセルに分かれているといっても良いが、さらにこれを細かく分けることで、停電などの被害を抑制することが可能になる」とセル化によるイメージを阿部氏は説明する。

大規模なセル化のイメージ。セル化することで、その地域以外へ停電の影響を及ばなくしたり、電力の融通をしあったりすることができるようになる

小規模なセル化のイメージ。家、病院、ビルなどの建物規模で蓄電することで、相互に電力を融通することが可能となる。ただし、日本では法的な問題などもあり、3年後にはある程度の法改正のめどもつくとの見方を阿部氏は示すが、市場としては参加企業が海外でやりたいと言えば、国内にこだわらずに進めていくとする

また、パワーブーストを組み合わせることで、例えばこれまで建物に対し規定の電力が提供されていたものに対し、機器ごとに100V、200Vなど用途に応じて使用することができるようになり、例えばお湯を沸かすのには200Vを活用することで素早く使いたいときに沸かすことができるようになり、お湯を貯め置くタンクが不要となる。「電力系統側でも例えば50Aで契約している住宅があっても、平均的には5A程度しか使っていないため、送電の電力を減らすことで送電網の負担を軽減することができるようになる」とするほか、消費者側についても、「電力にアドレスが付与されることで、どこで、誰が、いつ、どうやって発電したかを知ることができるようになる。これにより、好きな地域で、好きなシステムで発電された電力を購入することなどが可能となる」とメリットを説明する。

ブーストすることで、(半導体を活用し)インテリジェント化した配電盤が、必要な機器に必要に応じた電力を可変的に供給することが可能となる。これにより100Vと200Vの切り分けを自動で行い、急速充電といった電力がより必要なものに対しては自動的に200Vで、より少なくて済むような機器に対しては100Vで、といったことができるようになる

なお、阿部氏は「次世代の電力送配電の世界標準を日本から取りに行く。新興国などを中心に電力が来ない場所に住む人は16億人、停電が頻発する地域に住む人は20億人という統計がある。一方、バングラディシュなどでは太陽光発電を活用した家などが建てられており、そうした建物などをつないでグリッドを構築していくことができると思っている」と世界的な取り組みへと発展したいという思いを述べており、より多くの企業の参加を求め、標準化への加速に向けた取り組みを進めていきたいとしている。

左から日本NIのマンディップ シング コラーナ氏、オリックス 小原真一氏、dGirdコンソーシアム代表理事の安部力也氏、NECの國尾武光氏