カナダの西海岸、Vancouverの隣のBurnabyという街に量子コンピュータを開発しているD-waveという会社がある。量子コンピュータは、ある種の問題に対しては現在のコンピュータより圧倒的に高性能と言われ、多くの研究が行われている。

普通のコンピュータは0と1の2値のbitを処理するが、量子コンピュータは0と1が重なり合ったqubitを処理する。研究室レベルで数~数10個程度のqubitを作ったという報告は珍しくはないが、実用的な処理には少なくとも50qubitは必要とか100qubitは必要と言われ、実用的な規模で安定して動く量子コンピュータを作ったというのは、現在のところD-waveだけである。

そして、同社は2011年5月に128qubitのD-wave Oneという商用機を米国の航空宇宙企業であるLockheed-Martinに販売したと発表した。購入したLockheed-Martinは南カリフォルニア大学とQuantum Computing Centerという研究機関を作り、使い方の研究を進めているとのことである。

このD-waveと南カリフォルニア大学が共同で、11月12日から18日にかけてシアトルで開催されたSC11で発表を行った。この発表を聞いたのであるが、正直言って、良く分からなかった。ということで、D-waveのWebサイトに公開されている資料などを読み、講演内容と併せて理解できた範囲で、紹介していく。

D-waveのqubitは磁束で状態を記憶する素子で、右回りの電流による磁束と左回りの電流による磁束で0/1のそれぞれの量を表す。

両方向の電流による磁束で0/1の重ね合わせ状態を記憶する(出典:SC11 発表資料)

普通の電流では、右回りと左回りの電流はキャンセルされ、差分の一方向の電流だけになってしまうが、量子素子では両方向の電流が同時に存在する。そして、その電流の量は図の小さいループに切れ目のように書かれているJosephson Junction(JJ)素子で制御することができる。これらのJJ素子の特性は小さいループに与える磁束でコントロールすることができ、それにより、qubitに任意の0/1の重なり状態を作ることができる。

D-waveの量子コンピュータは、qubit群に設定された初期状態から量子トンネル効果で徐々に状態が変わっていき、最終的に問題の解となる状態に落ち着くAdiabatic Quantum Computingという方法を使っており、量子ゲートを用いる通常の量子コンピュータとは動作原理が異なる。また、この動作はQuantum Annealingとも呼ばれる。

徐々に状態を変えるには、qubit間で影響を与えあうための結合が必要となる。qubitを結合する絵として、次の図が示されたが、これは良くわからなかった。

SC11でのqubitの結合を説明する図(出典:SC11発表資料)

D-waveのサイトの資料を見ると、qubitは、大小2つのループで書かれた前の図ほど簡単ではなく、次の図のように複数の機構から成り立っている。

D-waveの資料に書かれたqubitの構成(出典:D-wave資料)

それぞれのqubitには、製造バラつきなどを補正したりqubitの状態を制御する5つの系とCoupler DACと書かれている6つの系が存在する。これらに箱は、製造バラつきの補正量や結合量のデジタル値から高精度でアナログの電流値に変換するDigital to Analog Converter(DAC)である。なお、このDACはループに入れた磁束量子の数で決まる電流をトランスで変換しており、非常に高精度のものが作れるという。

そして、D-waveの量子コンピュータでは、次の図のようにq0~q3ビットは縦長のループを持ち、q4~q7ビットのループは横長になっている。そして各交点には結合度を調整するペアのJJ素子が設けられている。

Qubitの配置と結合を示す図(出典:D-wave資料)

この8qubitのグループを右方向と下方向に結合する機構が設けられている。理想的には任意のqubit間の結合を調整できることが望ましいのであるが、それでは多数の配線と結合機構が必要となりqubit数が多い場合は実用的でない。このため、D-waveは8qubitの範囲ではすべての交点での結合を可能とし、8qubitグループ間はXY方向に隣接する8qubitビットグループとの辺の4カ所での結合に制限している。この結合機構は、図に黒線で書かれたL字型の結合コイルと結合度を調整するペアのJJ素子からなっている。