東京大学(東大)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)の研究グループは、金のナノ粒子に光を照射すると粒子内部で発生する格子振動をピコ秒時間分解X線回折によって観測することに成功したことを発表した。同成果は東大大学院の一柳光平助教と佐々木裕次教授、およびKEK物質構造科学研究所の足立伸一教授らによる研究グループによるもので、米国物理学会誌「Physical Review B」に掲載された。

金のナノ粒子は古くからステンドグラスなどの赤色に使われてきた。これは金属粒子の大きさがナノメートルになることで粒子の表面効果が顕著になる「表面プラズモン共鳴」と呼ばれる振動が生じ特定の色が発色するためである。

ナノ粒子の大きさは光応答性に強く関わっており、それを利用するナノサイズデバイス、光応答材料や太陽電池への研究が進められている。光が金ナノ粒子に照射されて電子が励起されると、ホットエレクトロンと呼ばれる電子温度の高い状態になり、やがて電子-格子間相互作用によって電子と格子はナノ粒子の周辺物質に熱エネルギーを渡しながら熱平衡状態に落ち着く。この間、ナノ粒子はbreathing mode(呼吸モード)と呼ばれる膨張と収縮を繰り返すピコ秒の周期振動をするが、同モードの内部構造を観測することは困難であった。

今回、研究グループは、フォトンファクトリーのビームラインNW14Aを利用し、フェムト秒レーザーとX線パルスを用いたピコ秒時間分解X線回折法により、光照射時におけるサイズに依存した周期振動を金ナノ粒子内の格子構造変化から定量的に直接観測することに成功した。

ピコ秒時間分解X線回折法の概略図と金ナノ粒子の原子間力顕微鏡像(サンプル拡大図)

この結果、フェムト秒間、紫外光を照射したガラス基板上の金ナノ粒子は、音速で膨張・収縮を繰り返しながら熱エネルギーを周囲に拡散して平衡状態に達することが観測されたという。

波長400nmまたは800nmのフェムト秒レーザー照射時における金ナノ粒子の(222)の相対格子定数変化

この成果は、時間分解X線回折法は光照射時における寿命の短いナノ物質の過渡構造を観測するのに極めて有効であることを示すものであり、今後、同測定手法を活用することでナノ物質の高効率利用に向けた光励起構造ダイナミクスやナノスケールの熱拡散過程などの素過程を明らかにすることが可能となり、熱電素子の設計やナノデバイス使用時における放熱・廃熱問題の解決への道が開ける可能性がでてくると研究グループでは説明している。