京都大学(京大)などの研究グループは、水素結合を介してプロトンが伝わる様子を観察し、そのメカニズムを解明することに成功した。同成果は京大理学研究科の奥山弘 准教授および富山大学理工学部の上羽弘 教授らによるもので、物質科学の国際専門誌「Nature Materials」(オンライン版)に掲載された。

物質中におけるプロトン(水素イオン:H+)の移動は化学、生物学において重要な役割を果たしている。特に水素結合系におけるプロトン移動は、有機化学反応における酸・塩基反応や、生体中の酵素触媒反応の反応素過程として極めて重要であるが、今から200年前にグロータスがプロトンリレー移動の考えを提唱して以来、その分子レベルでの詳細は未だよく分かっていなかった。

水の中で電気(プロトン:H+)が伝わる様子。右端のH3O+イオンから、順次プロトンのリレーを行い、左端の水分子にプロトン(電荷)が移動すると考えられている(プロトンリレー)

その原因として、プロトンの量子力学的性質(プロトントンネリング)や、移動過程における周囲との相互作用(溶媒分子、分子内(間)振動など)が、その反応機構をより複雑なものにしているためであると考えられている。

研究グループは、奥山准教授らの実験チームと上羽教授らの理論チームの2チーム構成で、1個の水分子(H2O)に隣接して数個の水酸基(OH)が並ぶ一次元鎖構造を銅基板上に作製し、端の水分子に適切なエネルギーをもった電子を走査トンネル顕微鏡から当てると、水分子を構成する1個の水素原子(プロトン)が次々と隣のOH分子に乗り移り、最終的には端にあるOHがH2Oに変化する単一分子間のプロトン移動を観測することに成功し、その物理的機構を理論的に明らかにした。

走査トンネル顕微鏡の探針からエネルギー(電子)を水分子に注入することで、プロトンリレーが進行する。図は顕微鏡像を3次元表示したもの

この結果は、200年以上も前に提唱された水素結合系でのプロトン移動に関するグロータス機構の解明に新たな糸口を与えるものであるとともに、原子移動にともなう単一ビット情報伝達を利用した分子コンピュータへの道を開く可能性も秘めていると研究グループでは説明している。