東北大学と大阪大学は11月21日、炭素12原子核の「新しい励起状態」を発見したことを発表した。今回の発見は宇宙における元素合成過程の解明に関しての手がかりになると同時に、生命誕生の謎にも迫れるものとして期待されるという。

研究チームは、東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター、大阪大学核物理研究センター、京都大学大学院理学研究科、甲南大学、米ノートルダム大学の研究者らによって組織されており、成果は11月14日に米物理学会の学術雑誌「Physical Review C」において公開された。

人体を構成する炭素や酸素など、水素とヘリウムを除いた元素の数多くは、第一世代の恒星における核融合反応やそれらの超新星爆発などで誕生したとされている。しかし、恒星内の核融合反応については謎が多く、その機構解明には原子核構造の研究が重要な役割を果たすと期待されている状況だ。

炭素12原子核には、炭素よりも重い元素を合成する過程で非常に重要な役割を果たす励起状態である「ホイル状態」があることが、約50年前から予言されている(画像1)。しかし、このホイル状態がどのような構造を持つ状態なのかという点は、長年の謎となっており、現在も実験と理論の両面から精力的な研究が続けられている状況だ。

画像1。ホイル状態と炭素12原子核の合成

3つのヘリウム4原子核から成り立つとする理論模型「アルファ・クラスター模型」によると、ホイル状態は通常の原子核と比較して1/5~1/6ほどの密度しか持たない希薄な状態だという。通常の原子核はその種類によらずにほぼ一定の密度を持つことから、アルファ・クラスター模型が予言するホイル状態の性質は予想外のものとされ、その実験的検証が求められていたのである。

さらにアルファ・クラスター模型は、ホイル状態よりも高い励起エネルギーに別の回転励起状態があることも予測。もしこの励起状態が実際に存在すれば、炭素より重い元素を合成する速度が著しく増大し、宇宙の歴史や生命誕生の歴史のシナリオに大きな影響を与えると考えられている(画像2)。しかし、その予測された未知の励起状態については、これまで残念ながら実験的な確認ができていなかったというわけだ。

画像2。新しい励起状態と炭素12原子核の合成

そこで今回、阪大核物理研究センターのリングサイクロトロン施設において、世界最高クラスの性能を有する磁気スペクトロメータ「グランドライデン」(原子核散乱において発生する荷電粒子を磁場中に入射させて分析し、荷電粒子のエネルギー・放出角度を測定する大型実験装置)を用いて、原子核散乱の精密測定が実施された。この結果、炭素12原子核における新しい励起状態の存在を確認することに成功したのである。

新しい励起状態の存在を実験的に確認できたことから、研究チームは恒星内における元素合成過程やホイル状態の特異な構造の解明が進むと説明している。また、宇宙での炭素の作られる度合いによって生命体の進化は異なってくると考えられることから、生命誕生の謎にも迫られるとしている。