Alteraは10月19日、ビデオ解析ソリューションの提供を開始した。この発表に合わせる形で、同ソリューションの説明会が同社日本法人である日本アルテラにて行われたので、この内容を元に同ソリューションの紹介をしたい。
今回発表になったのは、AlteraのCyclone IV上で動く、ビデオ解析向けのIP。このIPそのものは米Eutecusが提供するものだが、販売をAlteraが行うこと形になるため、開発者はAlteraとだけコンタクトを取れば利用できることになる。
このIPは、監視用カメラ向けのビデオ解析を行うものとなる。従来、ビデオ解析といえば、映像のフィルタリングとかエッジ強調とかカラー変換などの、いわば映像処理に分類される内容のものが多かったが、昨今はVideo Surveillance的なニーズが増えてきている。
そもそも監視用カメラというニーズが以前と現在では大きく異なってきている。かつては店舗の監視とか通路の監視などをアナログベースのSD解像度のカメラで撮影し、これを必要なら間引いたり縮小したりして記録しておき、何かあったら過去に遡って見直してみる的な使い方が多かった。ところが昨今ではカメラもデジタル化され、接続もIPベースとなり、しかもリアルタイムで画像を解析した上で、例えば人数の計測とか特定対象(人間とか車など)の移動方向や移動範囲の追跡といったものをカメラ側である程度処理して、これを(撮影した映像と共に)バックエンドに送り出すといった機能が求められている。
またこうした解析機能には高精細な映像が必要であり、このため解像度もHDで、しかも30fps以上(中にはもっと高速性を要求される場合もある)の映像が必要である。今回提供されるIPは、こうした高機能なデジタル監視カメラに向けたもので、Alteraによれば1080p@30fpsで、同時に最大9つまでの検出条件をサポートするとしている。こうした機能を、従来だとDSPベースで実装している例が多かったが、1080p@30fpsの映像をDSPベースで処理すると、7.6GHz駆動相当のDSPが必要であり、これに比べてFPGAではより高速に処理できる、という点が同社の主張である(Photo01)。
Photo01:これは同じ1フレームの映像を処理するのに、DSPとFPGAでどれだけ処理時間が掛かるかを比較したもので、縦軸が処理時間(ms)。QVGA程度ならDSPでも問題なくリアルタイム処理が可能だが、1024×1024ともなると300msを超えており、つまり毎秒3fps程度しか処理できない計算になる。一方のFPGAでは処理時間に大きな差が無い |
提供されるIPであるが、MVE(Multi-core Video Analytics Engine)と呼ばれる部分は丸ごとEutecusから提供される。このコアになるのはC-MVAと呼ばれるコプロセッサIPである(Photo02)。これはEutecusとAlteraが共同でCyclone IVに移植したもので、これとは別に内部の制御を32bit RISCで行っているが、これにはAlteraのNEOS IIが利用されている。このMVE全体は、あたかもASSPの様な形で提供され、アプリケーション開発者が手を入れる必要はない。MVE自体の制御は、別途GUI式に提供されるMVE Softwareがあり、これを使って解析ルールや事象の設定・構成が可能である。
もちろんMVEだけでは機能が足りない、あるいは提供されていない機能を追加したいというニーズはあり、これはPre-ProcessingあるいはPost-Processingの形でMVE IPの前後にFPGAのカスタムロジックとして組み込む事が可能である。MVE IP全体の規模は、最小構成で「EP4CE75(75000LE)」程度が必要とのことで、なので必要ならより大きなCyclone IVを使うことで機能追加が可能ということになる。
「ならばいっそArriaとかStratixといった大規模なFPGAをもってくれば、解析のみならずカメラ全体を構成できるのでは?」と考えるところだが、今回提供するのはあくまでIPカメラの一部(Photo03)である。
Alteraとしても、必要なら各種のフィルタやイメージ処理機能、あるいは(今すぐではないそうだが)H.264のエンコーダといったIPを提供する事は可能だが、どちらかといえば既存のHD IPカメラの機能拡張の方法として今回のIPを使ってもらう、という方向性が現時点では主なようだ。そうなると、別にこうしたハイエンドのFPGAでなくてもCyclone IV程度で十分ということになる。最近のHD IPカメラに求められるコスト効率や低消費電力性を考慮すると、28nmプロセスで高速動作・大規模回路が構成可能ながら消費電力・コスト的に厳しい新製品よりも、65nmプロセスで低消費電力かつ低コストなCyclone IVの方が好ましいと判断した模様だ。なお、Arria/Stratixや、同じCycloneでもCyclone V系では内部構造が異なってくるため、最適化の手法が異なるということで今のMVE IPをそのまま搭載するわけには行かないとの話だった。といっても、これは顧客のデマンドがあれば対応可能な範囲との事である。
ちなみに価格は「現在検討中」ということで明らかにはされなかったが、初期ライセンス料やNREなどはなく、完全にロイヤリティベースとなるとの事だった。ロイヤリティに関しては、MVE IPの動作にSecurity Device(実際にはOne Timeで書き込んだCPLD)が必要であり、これを接続して初めてMVE IPが動作するという一種のソフトウェアドングルの形態をとっている。このSecurity Deviceのコストにロイヤリティが加味されているとの事で、こちらも数量に応じて価格は3段階程度の構成を考えているとの事だが、それほど高価格にはならないとの話であった。
セキュリティカメラのマーケットは、今はそれほど大きいという訳ではないが、それでも2010年の時点でおおよそ10%程度がIPベースのVideo Analytics機能を持ったものであると言われている。ところが、これが2014年には台数が10倍となり、またこのうち45%がIPベースのVideo Analytics機能を持つと予測されている。つまりIPベースのVideo Analytics機能を持ったカメラの市場規模は、4年で45倍に膨れ上がるという極端なエマージングマーケットであり、Alteraとしても当然無視できない。もちろん既にTIのDaVinchとかCavium NetworkのPureVuといったSoCがこうしたマーケットを狙って投入されているが、1080p@30fpsの映像をリアルタイムで処理できる事と、既存の顧客の製品にそのままマイグレーションする形で機能を向上させられる点がAlteraの強みであり、今後どの程度のDesign Winを獲得できるか非常に興味深いソリューションといえる。