名古屋大学(名大)は10月18日、交尾が排卵を引き起こす仕組みを発見したと発表した。研究は名古屋大学大学院生命農学研究科の井上直子助教および束村博子准教授らによるもので、成果は米「科学アカデミー紀要」オンライン版に10月10日付けで掲載された。
ほ乳類には、自然排卵と交尾排卵という2つの異なる排卵メカニズムが存在する。ラットやマウス、ブタ、ウシ、ヒトなどの自然排卵動物の雌は、性成熟を迎えると交尾刺激なしに卵巣において、卵胞の成熟、排卵が周期的に生じる機構を持つ。
これらは発情周期と呼ばれ、発情周期に従って卵巣から分泌される「エストロジェン」が、脳や下垂体において「性腺刺激ホルモン放出ホルモン」や「黄体形成ホルモン」のサージ状分泌を誘起することによって排卵を引き起こす仕組みだ。
一方、ウサギ、ネコなどの交尾排卵動物は、発情周期が存在せず、交尾刺激によってのみ排卵が生じる。この交尾刺激は、膣や子宮頸管から脳に伝わり排卵を誘起することがこれまで報告されているが、交尾が脳内でどのようなニューロンを活性化させるかといった詳細なメカニズムは未解明だった。
研究グループでは、原始的な有胎盤ほ乳類の1種である食注目に属する「スンクス」(ジャコウネズミ)を用いて実験を行った。スンクスのペプチド「キスペプチン」をコードする「Kiss1」遺伝子ならびに、キスペプチンの受容体「Gpr54」遺伝子をクローニングし、これらの遺伝子が脳内の視床下部に発現していることを確認。
次に、遺伝子配列から明らかにしたスンクスキスペプチンタンパクを合成し、これをスンクスに対して皮下投与を行ったところ、交尾刺激がなくても排卵を引き起こせることも判明した。
また、キスペプチン投与による排卵誘起効果が、性腺刺激ホルモン放出ホルモン「GnRH」の拮抗薬の前投与でまったく見られなくなることから、キスペプチンはGnRHの放出を介して排卵を引き起こすことを示した。
さらに、スンクスの視床下部において、Kiss1遺伝子の発現部位を確認したところ、視索前野および弓状核の2つの脳領域に局在しており、視索前野では卵巣からのエストロジェンによって促進的に、弓状核では抑制的に制御されているのが判明。
そして交尾によってスンクスの脳におけるキスペプチンニューロンが活性化しているかどうかを、細胞活性化マーカー「c-Fos」を指標として確認したところ、交尾によって視索前野のキスペプチンニューロンが活性化されていることが明らかとなった。
これらの結果により、スンクスにおいて交尾刺激は、視索前野のキスペプチンニューロンを活性化させることによってGnRH分泌を刺激し、排卵を誘起していることが示唆されたという次第だ。
今回の発見により、ほ乳類における生殖制御メカニズムの完全解明に向けて一歩前進し、家畜やヒトなどにおけるさまざまな排卵障害の解明の一助につながるとも期待されているとした。