鶴岡工業高等専門学校(鶴岡高専)と京都大学(京大)の研究グループは、リチウムイオンを含む揮発性溶媒の溶液をキャスト製膜(塗布製膜)によって、コロイド結晶の配列を乱すことなく固体膜化に成功したことを明らかにした。同成果は佐藤貴哉 鶴岡高専教授、森永隆志 同助教、辻井敬亘 京大化学研究所教授、大野工司 同准教授らによるもので科学誌「Advanced Materials」の電子版に掲載された。
リチウムイオン2次電池は、様々な2次電池の中で最も高いエネルギー密度・高い出力を持っているが、電解液として有機溶媒を用いているため、短絡、過充電時など、誤使用時の安全対策が不可欠だった。これを解決するために、電解質の固体化、あるいは難燃性を有するイオン液体の利用が検討されているが、いずれも現状では、リチウムイオンの移動性が大きく低下するため、十分な性能を発揮するリチウムイオン電池を開発することは難しかった。
今回研究グループでは、難揮発性、耐熱性(300℃付近でも発火しない)と耐電圧性(一般的なリチウムイオン2次電池で発生する電圧をかけても安定)を有するイオン液体の分子内に、高分子化が可能な重合性基を導入した新しいイオン液体型モノマーの合成に成功。このモノマーに辻井らの開発した表面開始リビングラジカル重合法を適用して、直径130nmのシリカ微粒子表面にイオン液体の性質を有する長さの揃った高分子ブラシを高密度に付与したイオン液体ポリマーブラシ/シリカ複合微粒子(PSiP)を創製した。
これまでに研究グループでは、この高密度高分子ブラシの新規な特性を反映して、各種PSiPが液体中で自己配列し、コロイド結晶と呼ばれる3次元配列構造体を形成することを発見しており、今回の成果はそれを発展させ、PSiPに少量のイオン液体、リチウムイオンを含む揮発性溶媒の溶液をキャスト製膜(塗布製膜)により、コロイド結晶の配列を乱すことなく固体膜化することに成功したというものとなっている。
こうして得られた固体膜は、従来知られている固体ポリマー電解質に比べて高いイオン伝導性を有すること、および膜中において微粒子が面心立方格子構造と呼ばれる規則的な配列構造を有することが確認されており、微粒子間隙には、高い分子運動性を有するブラシ末端とイオン液体が複合したイオン伝導ネットワークチャンネルが形成され、その結果、固体でありながらイオン液体にも匹敵する高いイオン伝導性を示したと考えられると研究グループでは説明しており、この新規コンセプトに基づく構造制御と高機能化を提唱することにつながると期待をのぞかせる。
実際に研究グループでは、得られたコロイド結晶膜を電解質としたバイポーラ型高電圧リチウムイオン電池を試作し、セルにてその実用性を確認している。金属箔集電体の表裏に正負極を形成したバイポーラ電極と今回開発したコロイド結晶型固体ポリマー電解質膜を積層することで、1パッケージの中に直列接続された複数個の単電池を組み込むことが可能となり、試作したバイポーラ電池は、単セル電池の2倍の特性、すなわち、満充電電位6.0Vで3.0Vまでの放電、また、室温で50サイクル時まで充放電効率98%を達成したとしており、この結果によりこの固体ポリマー電解質は、可燃性物質を含まない固体の電解質でありながら、リチウムイオン電池の室温駆動を可能にする高いイオン伝導性と電池のバイポーラ設計を可能とする成形性・強度を有することが実証されたこととなった。
なお、今回のコロイド結晶型固体ポリマー電解質は、難燃性部材のみから構成されるため、電池の高レベル安全性確保が可能となるほか、可燃性液体を含まない電解質は、リチウムイオン電池の経年劣化による安全性の低下や漏液などを引き起こす心配もないという。さらにこのポリマー電解質技術を用いてバイポーラ設計が可能となることから、高電圧電源の小型化、低コスト化が可能となるとのことで、研究グループでは今後、実用化に向け、電解質の改良研究および製造プロセス研究を継続して行っていく予定としている。