宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月30日、金星探査機「あかつき」に関する記者会見を開催し、先日実施した軌道上試験噴射の結果と、今後の運用方針について説明した。試験の結果、軌道制御エンジン(OME)は破損が進行していることが分かり、使用を断念。以降は姿勢制御エンジン(RCS)による金星周回軌道への投入を目指す。
試験噴射の結果について、OMEは全損か
日本初の金星探査機「あかつき」は、2010年12月の金星接近時に軌道制御エンジン(OME)を使った逆噴射を実施。速度を落として金星の重力に捕捉させる予定だったが、姿勢が大きく乱れたことによって、計画の2割程度の時間で噴射を中断、金星周回軌道への投入に失敗した。「あかつき」は金星を通過し、太陽の周りを7カ月ほどで1周する楕円軌道に入っていた。
その後のデータ解析や地上試験などによって、不具合の原因は燃料を加圧して押し出す高圧ヘリウムのバルブ(CV-F)が閉塞したことと判明。これによって燃料の供給が減り、結果的に酸化剤過多になり通常の燃焼条件を逸脱、温度が異常に上昇してセラミック製のOMEが破損したものと推測されている。ただ、破損後も推力は7割程度は維持しており、この時点では燃焼室は残っていて、ノズル部分だけが脱落したものと見られていた。
次回の近日点通過が11月に迫っており、ここで軌道制御を実施すれば、2015年11月に金星に再会合することが可能になるが、OMEの再使用が可能かどうかが分からなかった。そのため、JAXAは9月7日と14日の2回に渡って短時間の試験噴射を実施して、OME再使用の可否を判断、近日点での噴射をOMEでやるのか(案1)、それとも姿勢制御エンジン(RCS)を使うのか(案2)を決めることにしていた。
ところが、この試験噴射の結果を分析したところ、予想(約350N)のわずか1/9程度の推力(約40N)しか出ていなかったことが分かった。燃料配管の温度低下から、燃料は予定通りの量が供給されていたと見られ、すると推力が低かった原因としては、燃焼器の破損しか考えられない。燃焼器が完全に壊れて燃焼ガスが拡散する状況だった場合、推力は50N程度になると推測され、今回の結果に近い。
OME試験噴射の結果。1回目(2秒)と2回目(5秒)で同様の傾向となり、ともに推力は想定を大きく下回った。見て分かるように、RCSの推力の方が大きいくらいだ |
スロートが残り、燃焼室の圧力が維持できれば、7割程度の推力は発生できる(左)。しかし、燃焼室が全損するとガスが拡散して、有効な推力は得られなくなる(右) |
OMEの異常燃焼を地上の実験で再現した際、スロート(一番細くなっている部分)から先のノズルが破損した例があった。「あかつき」も実際にこのようになっていたと考えられるが、この破損スラスタを使ってエンジンの再着火を試みたところ、破損が進行して燃焼室が全損するケースもあり、それを避けるために、さらに着火衝撃を緩和する方法を検討。酸化剤を先行して噴射するなどの条件を導き出し、9月の試験噴射ではこれを適用した。
「あかつき」の燃焼器がいつ壊れたのかについては検証する方法はないが、可能性としては、OMEの再着火と同時に瞬間的に破損したとの見方が強い。いずれにしても今後、OMEを使える可能性はなく、軌道変更にはRCSを使う方法しかなくなった。