世界的にロボットに対する見方が変化してきた現在

iRobotは9月27日、都内で会見を開き、同社CEOのColin Angle氏が同社の考えるホームロボットの未来や日本市場の魅力について語った。

iRobot CEOのColin Angle氏

iRobotはMIT(Massachusetts Institute of Technology:マサチューセッツ工科大学)の人工知能研究所で働いていた3人が映画に出てくる格好の良いロボットではなく、実際の生活を支援するためのロボットを作るために、1990年に設立したロボットメーカー。現在は、自律型家庭用掃除機「ルンバ(Roomba)」のほか、福島第一原子力発電所の事故現場に投入された「PackBot」や「Warrior」なども手がけており、同氏は「人間の実際の生活を支援するためのロボットを作りたかった。掃除は面倒だが、しなければいけない仕事。戦場での爆発物処理なども面倒で危険。そうした退屈、不衛生、危険といった仕事を人間にやらせるのではなく、ロボットにやらせようという考えで設立した」と設立背景を振り返る。

2003年までは赤字続きであったが、その間も米国航空宇宙局(NASA)の依頼による火星探査ロボットのデザインなどを進めてきたほか、黒字化を果たした2004年以降もアフガニスタンでの洞窟探索などの用途のロボット提供や、メキシコ湾で起きた原油流出事故における海底部分への原油の堆積を確認するためのロボットでの調査、そして2011年3月11日に起きた東日本大震災に端を発する福島第一原発事故へのロボット提供と、人間が危険で立ち入れない、もしくは立ち入りたくない場所で活用できるロボットの提供が行われてきており、これにより「ロボットが現実に横たわる問題を解決する手助けをしてくれる存在である」と世界の見方も変化してきたという。

掃除機市場で着実に成長するロボット

では、もっと身近な部分でのロボットの存在はどうか。例えばアジア太平洋地域の掃除機市場は17億ドル。その内、掃除ロボットが占める割合は8%だという。また、EMEA(Europe, the Middle East and Africa)地域は21億ドル、その内13%が掃除ロボットが占めるが、「例えばスペインではすでに販売される掃除機のうち4台に1台が掃除ロボットになっている」と、地域によっては高い比率を占めるようになってきていることを強調する。

また、日本は米国に次ぐ、掃除ロボットの市場で、「Roombaは米国よりも日本の方が知られていると感じている。10月に発売される700シリーズも、日本のユーザーからの高い要求に応えるための機能を多数搭載した」と日本からのニーズが多数盛り込まれているとし、今後も日本のユーザーを重視していく姿勢を見せる。

こうした新機能としては、例えば、吸い込む前の空気よりもRoombaから排出された空気の方がきれいになるように工夫されたフィルタであったり、畳や硬い床を傷つけずにきれいにできる機構であったり、ゴミセンサとして光センサを用いたカメラを搭載することで、実際にゴミを吸い込んでいるかどうかを見極め、ゴミがなくなるまでその場に留まり、掃除を続けるといったようなものが追加されている。

Roomba 700シリーズは日本のユーザーからのニーズを多く取り入れて開発された

執事ロボットが居る未来の家庭の姿

掃除という機能に特化して開発が進められているRoombaだが、掃除以外のニーズにはどう対応していくのか。そうした研究として、同社では同一材料ながら、プログラム次第で、部分部分を選択的に硬化させることが可能な機構の開発が進められている。

ボール状になり転がることも可能だし、場所によっては歩くことも、そしてモーターを用いずに手としてかなり重いものを持ち上げることも可能であり、強度もボールを握って、ティーバッティングのティーの先端として用いても壊れないレベルを実現しており、こうした機構を活用したロボットが手軽に活用できる時代がもうすぐくるという。

DARPAが進めるChemical Robots(ChemBots)やUniversity of North Carolina(UNC)で進められているReconfigurable Chemical Robotsと銘打たれたJamBotsなど、柔軟に形と硬さを変化することができるロボットの開発も進められている

また、家の中ということで見ると、同社は2011年のCESなどで披露した実用的な移動ロボットのプラットフォーム(practical mobility platform)「AVA(エイヴァ)」がある。CESでは遠隔診断などのヘルスケアや高齢者支援のためのロボットと言われていたが、今回、同氏が掲げたコンセプトは「執事」だ。「100年ほど昔、金持ちは広い家で快適、清潔に暮らすため、多くの使用人を雇い、さまざまな仕事をやらせたが、それらは個々別々ではなく執事が上手く仕事が回るように管理していた。現在、さまざまな家電が登場し、ホームセキュリティなどの用途も出てきた。こうしたさまざまな機器をネットワークで介し、Avaが監視、管理することで、より効率よく快適な生活が可能になる」というイメージだ。

例えば、知人が家に遊びに来たら、Avaも挨拶してくれるし、掃除をしたいときはRoombaを直接操作しなくてもAvaに「掃除をしておいて」と頼めばAvaが監督して掃除をしてくれる。病人であれば薬を飲む時間やリハビリの時間なども教えてくれるし、重要事項があれば、Avaがその旨を伝えてくれる、といった具合だ。

家電機器がほとんどなかった時代、家の掃除も炊事もすべて人手をかけて行っていた。現代は多くの家電機器を用いて、少ない人数でそれらを実現できるようになったが、それでも人がそこに介在する必要がある。Avaはそこに人の代わりに入ることで、人の手からそうしたわずらわしい各種の手間を切り離そうというコンセプトの試作ロボット

さらに、自律走行が可能なので、ショッピングセンターなどを巡回して、セキュリティロボットのような活用も可能だという。「我々が考える将来の家、その中心にはロボットが居る。しかし、ロボットが主ではなく、あくまで執事という立場。家の中の管理はするが、それはそう主である人が求めての形となる。高齢者が自立して生活することを支援する。我々の考えとしては、開発されるロボットはユーザーのためになるものでないといけない。姿かたちが例え格好良くても役に立たないもの、全体の1割の部分にしか役に立たないものなどは作るつもりはない」と、人の快適な生活を影でサポートできるようなロボットの実現を将来的に同社では目指していくということを強調していた。

なお、Avaについてはまずは商業利用での活用からスタートし、産業用途を経てから家庭用という順番になるとしている。

AvaとColin Angle氏

左からAva、Roomba 700シリーズ、PackBot

Avaの外観。高さはある程度の調節が可能。また、パネルはiPadだが、Androidタブレットも搭載が可能