東京大学は9月22日、膜タンパク質「インターロイキン1レセプターアクセサリープロテインライク1」(IL1RAPL1)が、脳神経ネットワーク形成において最も重要なステップであるシナプス形成を制御していることを明らかにしたと発表した。東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻の三品昌美教授と吉田知之講師による研究で、成果は「The Journal of Neuroscience」9月21日号に掲載された。
精神遅滞と自閉症は、小児の重大なハンディキャップの中では最も高頻度の要因の1つである。また、自閉症患者の約半数が精神遅滞を伴うとされ、これらの神経発達障害に共通した発病のメカニズムが考えられている。精神遅滞と自閉症はともに遺伝要因の関与が大きいことが知られているが、多様な因子が関与していることが次第に判明してきており、原因究明の壁となっているのが現状だ。
IL1RAPL1は、通常は男性が発症する「X染色体連鎖型精神遅滞」の原因遺伝子として同定されており、自閉症家系においてもその遺伝子変異が報告されている細胞膜分子である。研究グループでは、IL1RAPL1タンパク質が神経細胞においてどのような機能を担うかを明らかにするため、培養大脳皮質神経細胞を用いて研究を行った。
その結果まずわかったことが、神経細胞にIL1RAPL1タンパク質を発現させると、同タンパク質を発現する神経細胞とその周囲の神経細胞の間にあるシナプスの数が増加することだ。一方、IL1RAPL1タンパク質の機能を抑制すると、シナプス数が減少することも判明。また、IL1RAPL1タンパク質の細胞の外側に存在する部分をビーズに結合させ、このビーズを培養大脳皮質神経細胞の上にのせると、このビーズに接する神経細胞にシナプス前部(シグナルを伝える神経細胞の末端部分)の構造が作られることもわかった。
さらに、IL1RAPL1タンパク質の細胞外部分には、「受容体型チロシン脱リン酸化酵素(PTP)δ」が結合することも確認。そしてPTPδの機能をなくした神経細胞では、IL1RAPL1によるシナプス形成を促進させる効果が完全に失われることもわかったのである。
すなわち、隣接する神経細胞間でIL1RAPL1とPTPδが結合することによって、神経細胞間のシナプスが作られるというわけだ。また、マウス大脳においてIL1RAPL1とPTPδの結合を阻害してみたところ、シナプスの減少が確認された。
今回の研究から、精神遅滞や自閉症の発病に関わるIL1RAPL1タンパク質は、PTPδと結合することによって神経細胞間のシナプス結合の形成を促進し、大脳皮質神経細胞のネットワーク形成に重要な役割を担っていることが明らかとなった(画像1)。
この成果から、IL1RAPL1の欠損は脳神経ネットワーク形成の不全を引き起こし、精神遅滞と自閉症の引き金となっているものと考えられる。今回の発見は、シナプス形成の障害が精神疾患を引き起こす経路となることを示唆しており、同研究の知見は精神遅滞と自閉症の発病メカニズムの理解と治療法の開発に役立つことが期待されている次第だ。