高エネルギー加速器研究機構(KEK)は、QUIET(Q/U Imaging ExperimenT)実験国際コラボレーションとともに、宇宙マイクロ波背景放射(CMB:Cosmic Microwave Background (radiation))の偏光観測のための装置が、感度において世界トップレベルに立ったことを発表した。これにより、インフレーション宇宙の探求に道筋が立ったとも述べている。

CMBとは宇宙のあらゆる方向から一様に降り注ぐ電磁波のことで、ビッグバンから38万年後、宇宙が冷えた結果それまでプラズマ状態だったところを原子が形成されたことで光が直進できるようになった状態(宇宙の晴れ上がり)の時に生じた宇宙最古の光であり、ビッグバンが起きたという有力な証拠である。

そしてQUIET実験では、南米チリのアタカマ高地(高度5000m)において、CMB偏光測定器(初期は43GHz帯、2009年6月以降は95GHz帯に感度を持つレシーバ)を搭載した望遠鏡を使って、ビッグバンを引き起こしたとされる宇宙誕生後の急激な空間的大膨張「インフレーション」の決定的証拠を探索中だ。米シカゴ大学を中心に、日、米、英、独、オランダ、ノルウェー、チリの21研究機関、総勢50名の研究者が参加している国際的な大型の実験となっている。なお、原始重力波の検出は世界中で競争中だ。

インフレーションを裏付ける証拠となるのが、インフレーションの際に時空が震動することで生じたであろう「原始重力波」だ。この原始重力波が確認できれば、インフレーションが起きたことの証明となるし、またビッグバンよりも前に起こったことを明確にできるのである。

ちなみに「ビッグバンより前」とは、一般的に「宇宙の最初はビッグバンから始まった」と誤解されているため、表現が間違っているように思われるかも知れないが、現時点で科学的に支持を集めているのが、まずインフレーションが発生してその後にビッグバンが生じた、という流れだ。今回の実験は、どちらが先なのかというのをはっきりさせることが目的というわけだ。

そして、そのインフレーションの証拠となる原始重力波だが、発見のカギとなるのがCMBの偏光(振動の方向)の内、左回りの渦巻き状の偏光パターンを持つ「Bモード偏光」を検出することである。QUIET実験はその発見を最大の目的としており、2008年10月よりデータ取得がスタートしたというわけだ。

今回の発表は、初期の8カ月間の観測の結果、QUIET実験で使用されている測定器の検出感度が、世界トップレベルであることが判明したというもの。検出器ごとの精度のバラつきも小さく、Bモードの検出にあたって極めて優れた精度を有していることも判明。これらにより、観測という実験的な手法でインフレーションが本当に引き起こされたのかどうかという、宇宙誕生初期の謎のひとつを直接解き明かす道筋が開かれたというわけだ。なお、QUIET実験では観測装置のアップグレードを計画中としている。