理化学研究所(理研)は8月15日、2型糖尿病発症の仕組みの一部について、従来よりも詳細に究明すると同時に、治療法や予防方法につながる実験結果についても発表を行った。理研基幹研究所ケミカルバイオロジー研究領域システム糖鎖生物学研究グループ疾患糖鎖研究チームの大坪和明副チームリーダーと、米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校のJamey Marth博士らとの共同研究によるもので、科学雑誌「Nature Medicine」オンライン版(8月14日付け:日本時間8月15日)に掲載される予定。
今回の研究成果は、血糖に応じたインスリン分泌機能保持にとって、膵臓内のランゲルハンス島に存在するインスリンを分泌する「β細胞」で起きる単糖分子が鎖状に結合した「多分岐型糖鎖修飾」が重要であり、その異常が2型糖尿病発症を招く仕組みの一部であるというものだ。
これまで2型糖尿病の発症過程については、細胞表面に発現している血糖認識分子である「グルコーストランスポーター」に対して多分岐型糖鎖修飾を行う糖転移酵素「GnT-IVa」が欠損すると、グルコーストランスポーターは膵臓β細胞表面で安定的に発現することができず、それにより血糖認識機構を損ない、糖尿病を引き起こすというところまではつかんでいた(画像1)。
また、食生活の過度な変化などが引き起こす肥満・糖尿病の発症モデルとして、高脂肪食を摂取させたマウスの病態解析も実施。マウスの膵臓β細胞でGnT-IVaの発現が著しく低下していることが判明したことから、糖尿病発症過程に深く関与していることも研究グループでは把握していた。しかし、その詳細な発症の仕組みやヒト2型糖尿病の病態形成への関与についての詳細は不明のままだったのである。
そこで今回の実験は、高脂肪食を摂取させて糖尿病にしたマウスを用いて実施。膵臓β細胞におけるGnT-IVaの遺伝子プロモーターの解析し、その発現が膵臓β細胞の機能維持に不可欠となる転写因子「FOXA2」および「HNF-1α」がポイントであることを明らかにした。
さらに、脂肪が分解されることで生じる「遊離脂肪酸」を処理した正常なマウスと、ヒトのβ細胞や高脂肪食を摂取した糖尿病マウスの膵臓β細胞では、高脂肪食を摂取することで遊離脂肪酸が上昇することでFOXA2とHNF-1αが核外に排出されることも発見(画像2)。その結果、グルコーストランスポーターと、GnT-IVaをコードする遺伝子「Mgat4a」の発現が低下してしまい(画像3)、β細胞の血糖認識機構が損なわれてインスリン分泌機能が不全になるということが判明したのである。この異常は高脂肪食を摂取した糖尿病マウスだけでなく、ヒト2型糖尿病患者の膵臓β細胞でも共通して起きることも確認された。
同時に今回の実験では、GnT-IVaを強制的に発現させたトランスジェニックマウスを作成し、高脂肪食摂取後の膵臓β細胞の性状・機能変化および個体内での糖代謝機能の解析も実施。この実験では、膵臓β細胞表面でのグルコーストランスポーターの発現が保持され、長期間にわたってβ細胞の血糖認識機構が正常に機能し、血糖レベルに応じてインスリンを分泌、血糖値をコントロールできるという結果が得られている(画像4)。GnT-IVaを強制的に発現させることが、2型糖尿病の予防につながるということが実証されたというわけだ。
なお、2型糖尿病はいわゆる過食や肥満、過度の偏食などが主な原因となって発病し、日本においては9割を占めているタイプ。年々患者数は増加しており、現在は700万人を数えるという。さらに境界型の患者を含めると2000万人にも及ぶという、国民的な規模の病気だ。今回の研究成果により2型糖尿病を予防できることも実証されたことから、治療手段にもつながるとして期待されている。