情報通信研究機構(NICTと東京大学(東大)は、それぞれが独自に開発を行ってきた「光格子時計」を60kmの光ファイバ(NICT:東京都小金井市-東大:本郷キャンパス)で結び、双方の時計で生成される周波数の比較実験を行った結果、これらの光格子時計が6500万年に1秒の精度で一致した時を刻むことを確認し、光格子時計により、16桁に到達する高い精度が実現できることを実証した。また、同時に、これら2地点における標高差56mに起因する一般相対論的重力シフトをリアルタイムで検出した。同成果は、応用物理学会英文速報誌「Applied Physics Express」に公開された。

高精度の時計の性能は、同等又はそれ以上の性能の時計と周波数を比較することで評価される。また、時計により得られた周波数を周波数標準として利用するためには、物理的に離れた場所で、完全に独立した複数の時計の周波数が一致していることを確認できなければならないが、光原子時計においては、遠距離にある時計の周波数の差をその性能に見合う正確さで、高速に計測する手段がなかったため、これまで15桁までしか時計の信頼性が保証されていなかった。

そこでNICTでは、次世代周波数標準として注目される「光格子時計」と「超高精度光ファイバ周波数伝送システム」を独自に開発。この光格子時計と24km離れた(光ファイバ長60km)東大の光格子時計との周波数比較実験を行った結果、56mの標高差による一般相対論的重力シフトをリアルタイムに検出し、その影響などを補正することで双方の時計が16桁(6500万年に1秒)の精度で一致することを確認したという。

周波数リンク概要。今回の実験では、87Sr原子による光格子時計を双方で利用した。原子遷移は波長が698nmで、この波長は光ファイバでは伝送できないため、光ファイバで用いられている通信帯波長1.5μmに波長変換を行っている。そのための技術として光周波数コムを活用した

これは、異なる機関が離れた地点で独自に開発した光原子時計が、16桁の精度で一致することを実測した事例であり、光周波数標準の研究開発におけるマイルストーンとなるものであるという。

また、このことにより、日本発のアイディアである光格子時計について、その周波数標準としての普遍性と日本の技術開発力を立証し、同時に、現在実現可能なほぼ最高精度の周波数標準を遠隔地に向けて品質劣化させることなく伝送する技術を確立したとNICTでは説明しており、これにより光格子時計を用いて、国際基準としての1秒を再定義することが、現実味を帯びてくるほか、今後、精度がもう一桁向上すると、周波数差から重力ポテンシャルの情報を得て、地下資源探索などに用いるなど地球科学や他の分野での応用にも供することができるという。

観測された周波数差とその安定度。a)は、1秒ごとに取得された両方の光格子時計の周波数差((NICTの時計周波数から東大の時計周波数を減じたもの)。NICTの時計が平均して3-4Hz高い周波数を出しているが、これは、主にNICTの方が標高が高いために重力が小さく、時間の進みが早いため。b)は、両時計の周波数差について測定の平均時間が長くなると、その周波数差の不確かさが小さくなっていく様子を示している(アラン偏差)

さらに、開発した周波数伝送技術によってNICTが生成・維持する多様な時刻・周波数標準を遠隔地に光ファイバで供給することで、生産・研究現場の精密機器に用いられている基準周波数をいつでも、ごく短時間に校正できるようになるともしている。

重力シフト等既知の周波数差要因を補正した後の2つの時計の周波数差。重力シフトなどのシフト要因を補正して、NICTと東大の2台の光格子時計の周波数差を比較したデータ。全測定の平均とその平均値の不確かさを評価すると、両者の周波数は0.04±0.31Hzしかずれていないことが分かる