早稲田大学(早大)理工学術院の立和名博昭助教、胡桃坂仁志教授らの研究グループは、ヒト染色体の中心領域(セントロメア領域)の立体構造を解明することに成功したことを発表した。同成果は、「Nature」(電子版)に掲載された。
染色体の末端領域(テロメア)の構造解明により、2009年にノーベル医学・生理学賞が出て以来、次の重要な研究対象として染色体中心領域(セントロメア)の構造解明が世界中で注目されている。ヒトの遺伝情報(ゲノムDNA)は、直径5μmほどの細胞核に、2mの長さが高密度に折り畳まれて収納されている。このDNAの折り畳みは、染色体(DNAとタンパク質との複合体)によってなされている。
細胞分裂のために凝縮したヒトの染色体は、中心付近のセントロメア領域がくびれた形をしており、このセントロメア領域が細胞分裂時に紡錘糸によって引っ張られることによって娘細胞へ均等分配され、遺伝情報は失われずに2つの娘細胞に継承される。
遺伝情報の継承は生物の根幹にかかわる問題であるために、それを保証しているセントロメア領域が形成されないと、生物は生きていけない。ヒトの場合、セントロメア領域が形成されていても、一度セントロメア領域に異常が起こると、遺伝情報の正確な継承がなされずに、染色体数の異常を原因とするダウン症などの疾患や細胞のがん化につながることが知られている。
染色体の基本構造はヌクレオソームという構造体で、4種類のヒストンと呼ばれるタンパク質(H2A、H2B、H3、H4)2分子ずつからなるヒストン8量体に、DNAがおよそ2回巻き付いた円盤状の構造をしている。
セントロメア領域は、ヒストンH3の代わりにセントロメアプロテインA(CENP-A)というタンパク質が取り込まれた特殊なヌクレオソーム構造を形成していると考えられており、このCENP-Aを含むヌクレオソームの立体構造を明らかにすることが、セントロメア領域の形成機構の解明につながると期待されていた。
今回、研究グループでは、ヒト由来のCENP-Aを含むヌクレオソームの立体構造を大型放射光施設SPring-8の構造生物学IビームラインBL41XUおよび理研 構造生物学IビームラインBL45XUを用いたX線結晶構造解析法により原子分解能で決定することに成功した。この結果、CENP-Aヌクレオソームは、これまでに報告されていた通常のH3を含むヌクレオソームとは異なる特徴を持つヌクレオソーム構造を形成していることが明らかとなった。
これらの成果は、遺伝情報の正確な継承を担っているセントロメア領域の形成機構の解明に向けた研究が加速することのみならず、ダウン症などの染色体異数体を原因とする疾患や細胞のがん化機構を解明するために重要な手がかりを与えるものとなると研究グループでは指摘している。