STS-135の打ち上げにはスペースシャトルの引退フライトということもあるだろうが、「シャトル後」の宇宙輸送を狙う次世代宇宙船のアピールのため、プレスサイトにはボーイングとロッキード・マーチンの両社がテントを設置。自社が開発する有人宇宙船を来場者に説明していた。近くの別の場所ではSpaceXが「ドラゴン(Dragon)」の展示も行っていたのだが、それは別の記事を参照して欲しい。
ロッキード・マーチンが展示していたのは、「オリオン(Orion)」をベースに開発が進められている「MPCV(Multi-Purpose Crew Vehicle)」の試験モデルだ。これはアボートシステム(打ち上げの前後でロケットにトラブルが出たとき、クルーを救出するために宇宙船を速やかに離脱させるシステム)のテスト用に使った機体。テスト自体は2010年5月に実施しており、結果は良好だったという。
もともとのオリオンは、ブッシュ前大統領が「コンステレーション計画」として2004年に発表。オリオン宇宙船、アルタイル着陸機、アレスI/アレスVロケットを開発して、月や火星を目指すとしていた。しかし政権交代によってオバマ大統領が就任すると、2010年にコンステレーション計画を撤回。オリオンだけは用途を変え、MPCVとなって開発が続けられていた。
MPCVは最大6人乗り。地球周回軌道だけではなく、月や火星、小惑星などの有人探査も視野に開発が進められている。今回展示の試験モデルは宇宙船としての機能はまだ実装されておらず、開発としては初期段階のものであるが、MPCVは2016年までの初飛行を目指しているという。
一方ボーイングの展示は、「CST(Crew Space Transportation)-100」のモックアップ。CST-100は、地球周回軌道のみを想定した宇宙船であり、深宇宙探査も可能だというMPCVに比べると、低コストで済むのが特徴。テントにいた同社スタッフに聞くと、コストは「1桁違うよ」とのことだ。
7人乗りで、カプセル本体は10回の再利用が可能だという(ヒートシールドは使い捨て)。再突入の後はパラシュートで減速し、底面のエアバッグで着陸の衝撃を和らげる仕組みを採用している。こちらは2014年にテスト飛行を行い、2015年にNASA向けの正式フライトを実施する予定。国際宇宙ステーション(ISS)に宇宙飛行士を運ぶほか、ビゲロー・エアロスペースの宇宙ホテルに旅行者を乗せていくことも計画している。
打ち上げロケットは、アトラスV、デルタIV、ファルコン9などに対応。同社スタッフは、「ファルコンはコストが安いし、アトラスやデルタは信頼性が高い。バランスを考えてロケットを選べるのが強み」と説明する。
ドラゴン、MPCV、CST-100のいずれもが、スペースシャトルのような有翼型ではなく、ソユーズやアポロに代表される古典的なカプセル型を採用しているのは象徴的。これは、シャトルのような再使用型往還機が技術的にはまだ早すぎたことを表している。本来のコンセプトである低コスト・高頻度を実現するためには、飛行機のように整備も簡単でなければならない。しかし、シャトルはそこがまったくできていなかった。
ちなみに、シエラネバダ・スペースシステムズの「ドリーム・チェイサー(Dream Chaser)」は、リフティングボディ(胴体面そのもので揚力を発生させる仕組み)を採用。もともとはNASAが開発していた「HL-20」を同社が引き継いだもので、打ち上げはアトラスVロケットを使う予定だ。カプセル型とも有翼型とも違う新しいスタイルの宇宙船であり、こちらも注目したいところだ。