豊橋技術科学大学(豊技大)の武藤浩行准教授の研究チームは、複合粒子製造方法を用いカーボンナノチューブ(CNT)添加量が従来の1/100でも導電性を有するCNT樹脂複合材料の開発に成功したことを明らかにした。

新規材料の開発において異種物質同士の複合化は、重要な手法の1つである。しかし、従来の複合材料開発手法は、原料となる複数種の粉末を機械的に攪拌・混合するため、できあがった複合材料の特性を完全に制御することができず、添加する導電物質が分散されずに局所的に塊となって存在してしまい、導電性を発現させるためには多くの添加量を必要とするため、導電性の機能付与と引き換えに機械的特性が低下するなどの課題があった。また、高価な原料を大量に添加する場合もあり、コスト面でも、最小限の添加量で必要な材料特性が得られるような機能性材料の製造方法が望まれていた。

CNTを添加した樹脂(PMMA:アクリル)複合材料の破断面(CNTが網目状に樹脂粒子表面を覆っているのが分かる)

今回、研究チームは、CNTと母材となる樹脂粒子をそれぞれ異なる電解質溶液を用いてプラス・マイナスに帯電させ、その静電相互作用により、CNTを均一に樹脂粒子上に吸着させる複合粒子製造方法を開発した。

これで得られた複合粒子を原料とすると、ナノ複合材料の組織を任意に制御することができるようになるため、従来品と比較してCNTを重量割合で0.01%程度(従来の1/100)添加するだけで導電性を持った樹脂材料を作製することができるようになったという。また、同製造方法は特殊な混合・攪拌装置を一切使用しないため、従来の導電性樹脂製造方法に比べてコスト、製造時間ともに1/10程度に抑えることも可能だという。

研究チームが開発した複合粒子製造装置のプロトタイプ

さらに、添加量に依存して導電率を系統的に変化させることが可能であるため、帯電防止をはじめとして、導電材料を設計することが可能となったほか、添加量を少なくできる利点を生かして、資源枯渇の危機が叫ばれるITOに変わる透明導電性材料の代替候補としても期待され、実際に透明アクリル樹脂であるポリメチルメタクリレート(PMMA)粒子表面にCNTを静電吸着させ、均一な網目状に覆うこともすでに確認したという。

加えて、同粒子を用いて作製した複合材料の破面を観察した結果、PMMA界面にCNT導電チャネルを導入することができたとのことで、ごく少量のCNT添加量でも導電性を付与することができるため、透明性、樹脂としての特徴を兼ね備えた導電性樹脂材料を作製することが可能となるとしている。

このほか、材料内部にナノチャネルを導入し、材料中のナノ構造を任意に制御することがすることができるために、少ない添加量で必要な特性を効果的に付与することができ、CNTなどの導電性物質を添加物に選べば電気的特性を、また、高熱伝導材料を添加物とすることで高熱伝導性を制御することが可能だという。

加えて、母材となる粒子と、付与したい機能を持つ添加物の帯電量を電解質溶液で制御するだけであるため、材料種を選ばず汎用性が高いことも特長となっており、例えば、セラミック(アルミナ)造粒粒子表面へCNTを静電吸着させることも可能であり、これを焼結して導電性を持つセラミック材料を開発することにも成功したという。このような粉末冶金的な合成手法以外にも、高分子原料チップにCNTをはじめとしたナノ物質を複合化した複合粒子を原料として、従来の射出成形のような混練を行うことで、さらに分散性の高いナノ高分子複合材料を製造することも可能だとしており、高分子、金属、セラミックスを問わずに同製造方法を適用することで、触媒や化粧品などへの展開も期待できるという。

セラミック造粒粒子表面に静電吸着したCNT(繊維状の部分)

なお、研究チームでは今後、さらに高純度の金属製CNTや金属ナノファイバなどを添加物として、より添加量を少なくした透明導電性材料の開発を進める予定としている。