自然科学研究機構 分子科学研究所(IMS)などの研究グループは、IMSのWebサイトにて「ジャイアントマイクロフォトニクスの創成とレーザー点火」と題した研究成果を公開した。

同成果はIMSの分子制御レーザー開発研究センター、先端レーザー開発研究部門のNicolaie PAVEL 博士研究員、同 常包正樹 博士研究員、平等拓範 准教授および日本自動車部品総合研究所 Project General Managerの金原賢治氏らによるもの。研究の一部は、科学技術振興機構(JST)の支援を受け、日本自動車部品総合研究所、豊田中央研究所、デンソーと共同で進めているエンジン点火用マイクロレーザーの研究成果(JST 育成研究/育成ステージ)にかかるものであるほか、セラミックレーザー、マイクロチップレーザー研究では基盤A、地域連携研究などの科研費、振興調整費、JST地域結集事業、NEDOなど、また、浜松ホトニクス、リコー、三菱電機、島津製作所、コンポン研究所、川崎重工、新日鉄などの支援を得て行われたものとなっている。

高尖頭出力レーザーを用いた混合気の着火法であるレーザー点火は、非接触かつ時間・空間的な自由度が高いためシリンダ内での理想的な燃焼状態を作り出せることから、プラグに代わる点火装置としてレーザーの発明以来ずっと期待が寄せられてきたが、尖頭値がメガワット以上のジャイアントパルス固体レーザーは、一般に大型・不安定で効率も低いため環境の整った実験室から持ち出す事ができず、レーザー点火に関する原理は検証できてもそれ以上に議論が進むことは無かった。

図1 マイクロドメイン制御の概念

しかし、近年、分極反転素子など、物質・材料の光に対する性質をマイクロメートルの桁(光の波長)で制御することで、その特性の強調や新機能の発現が可能となることが示され、これに物性研究に則った新たなQスイッチ動作法の提案が融合したことで固体レーザーのダウンサイジングが進み、マイクロ固体フォトニクスに至った結果、従来不可能と思われてきたメガワット出力のジャイアントパルスの実現が可能となってきた。

一方、従来のパルスレーザーでは発生が困難であったピコ秒からナノ秒に至るパルスギャップ領域が点火に有効であることも発見された。この効果は、燃焼にはブレークダウンのための多光子吸収過程を誘起するに十分な高い尖頭値と火炎核形成に必要な電子加速の両方が求められるが、研究グループが開発したマイクロチップQスイッチレーザーでは、モードロックと従来Qスイッチのギャップを埋めることが可能で、上記の要求を満たすことが可能だという。

図2 レーザーによる燃焼過程とレーザーパルス幅の比較

これにより従来の報告値より低い投入エネルギーで点火が可能となり、エンジン動作実験でも、スパークプラグの1/10程度の投入エネルギー(2mJ程度)での効率的な動作が検証され、低燃費化・低エミッション化を可能とする希薄燃焼での優位性を実証できたとしている。

図3 プラグ型三ビーム・ジャイアントパルス発生可能なマイクロチップレーザーの外観

なお、研究グループは、マイクロ固体フォトニクスの展開により視野に入ってきたレーザー点火は、化石エネルギーの高度利用を可能とするもので近未来の低排出、低燃費の高効率・高出力自動車エンジンへの適用が期待できるとするほか、発電システムへの適用も検討が始まっており天然ガスや原子力などの分野への展開が期待されるとしている。