理化学研究所(理研)は、白血球の好中球、リンパ球など5つの成分について、日本人集団14,792人でゲノムワイド関連解析を行い、それぞれの白血球成分の数の個人差に関わる9個の新規遺伝子を発見したことを発表した。

同成果は、文部科学省が推進するオーダーメイド医療実現化プロジェクトで実施した遺伝子解析結果に基づくもので、理研ゲノム医科学研究センター 統計解析研究チームの高橋篤チームリーダー、岡田随象客員研究員、東京大学大学院医学系研究科内科学専攻アレルギー・リウマチ学教室の山本一彦教授らの共同研究によるもので、米国の科学雑誌「PLoS Genetics」オンライン版に掲載された。

白血球は、赤血球や血小板とならぶ血液中の細胞成分の1つで、体内に侵入した細菌・ウイルスなどの異物を排除する機能を有している。好中球・リンパ球・単球・好酸球・好塩基球といった5つの成分に分類され、それぞれが異なる役割を担っていることが知られており、具体的には、全白血球数の50~70%を占める好中球が細菌の排除、20~40%を占めるリンパ球がウイルスの排除や抗体の産生に、3~6%を占める単球が細菌の排除や老廃物の除去、2~5%を占める好酸球がアレルギー反応や寄生虫の排除に、そして1%弱を占める好塩基球がアレルギー反応に関与することが分かっている。

これら白血球成分の数は、感染症などの病気や、免疫・アレルギー反応といった複数の病態の活動性を反映して増減するため、血液検査の項目として医療現場で広く用いられているが、その測定値には個人差があることが指摘されており、原因解明が望まれていた。

研究グループは今回、ヒトゲノム全体に分布する約220万個の一塩基多型(SNP)を対象に、日本人集団8,794人から得た白血球成分の測定値との関連を評価する、大規模ゲノムワイド関連解析を行った。これにより関連が認められたSNPに関しては、5,998名を対象とした追認試験を行い、結果の再現性を確認した。その結果、白血球成分の測定値に関連する11個の遺伝子を同定し、そのうち9個が新たな遺伝子と判明した。

表1 日本人集団で白血球成分の測定値に関連する遺伝子。白血球成分の中でも、単球・好塩基球に関してはこれまで解析が進んでいなかったこともあり、今回、多数の新規遺伝子の同定につながったと研究グループでは説明している

図1 白血球成分測定値を対象としたゲノムワイド関連解析結果。白血球成分の測定値を対象としたゲノムワイド関連解析で得た各SNPにおける関連を示した図。上段より好中球・リンパ球・単球・好塩基球・好酸球における結果を表す。横軸にヒトゲノム染色体上の位置、縦軸に各SNPのP値が示されている。図中の記号は、関連の認められた遺伝子を示す

さらに、欧米人集団15,600人から得た解析結果を照合し、これら11個の遺伝子が、欧米人集団でも関連しているかどうかを評価したところ、「PSMD3-CSF3」、「ITGA4」、「GATA2」の3個の遺伝子が関連のあることを確認したほか、同定した11個の関連遺伝子が、複数の白血球成分の間で共有しているかどうかの評価も行い、特定の白血球成分だけで関連を認めた遺伝子が存在する一方で、複数の白血球成分で関連を認めた遺伝子が存在していることを見いだした。

図2 白血球成分間における、関連遺伝子の共有。各白血球成分の測定値を対象とした解析の結果、同定した遺伝子が、複数の白血球成分の間で共有していることが判明した。「ITGA4」、「PSMD3-CSF3」、「SLC45A3-NUCKS1」、「NAALAD2」遺伝子のように、特定の白血球成分でのみ関連を認めた遺伝子が存在する一方、「HBS1L-MYB」遺伝子のように、全ての白血球成分で関連を認めた遺伝子も存在した。各白血球成分に特有の制御機構だけでなく、共通した制御機構が存在していることを示唆するものと考えられるという(ゲノムワイド関連解析より緩い基準を採用し、各血球成分における関連を評価)

これは、各白血球成分に特有の制御機構だけでなく、共通した制御機構も存在していることを示唆しており、特に、アレルギー反応に関与する好酸球・好塩基球の両方に関連した遺伝子が4個(「HBS1L-MYB」、「MHC region」、「GATA2」、「ERG」存在することが判明した。

また、遺伝子を構成する塩基には、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)、A(アデニン)の4種類があるが、GATA2遺伝子領域に存在するSNP(rs4328821)の組み合わせがAA型の人の場合、GG型の人よりも好酸球測定値が約1.2倍、好塩基球測定値が約1.3倍高くなることが分かった。血液中の好酸球数が多い人は好塩基球数も多いことが以前より知られていたが、その原因となる遺伝子を同定したのは今回が初めてだという。

図3 GATA2遺伝子領域SNPと、好酸球数・好塩基球数との関連。各点が各個人における好酸球・好塩基球測定値を示す。GATA2遺伝子領域に存在するSN(rs4328821)のジェノタイプ(組み合わせ)がAA型の人の場合、GG型の人よりも好酸球測定値が約1.2倍、好塩基球測定値が約1.3倍高くなることが判明した

なお、研究グループでは今後、今回の研究で同定した遺伝子を対象に、血球(赤血球、白血球、血小板)細胞中における働きの研究を進めることで、白血球成分の制御機構の解明が期待できるとしているほか、これら遺伝子と免疫反応やアレルギー反応における個人差との関係解明など、個々人に合わせたオーダーメイド医療への応用にも期待できるとしている。