ネットワークを利用した辞書ファイルの管理も可能なので、社内LAN環境が用意された会社であれば、企業全体で日本語入力システムを制御することもできる。「文書学習ツールPlus」を使うと、指定したフォルダやファイル、RSSなどから、定期的によく使う用語を自動収集して辞書ファイルに登録してくれる。対象ファイルについては、Microsoft Word形式のdocファイルや、Adobe Readerで閲覧するpdfファイルなど幅広い形式のファイルを指定可能だ。

これにより、ユーザーがいちいち単語を辞書に登録する必要がなく、自動構築された専用辞書で、変換効率のよい入力を実現できるというわけだ。

もっと先進的な機能としては、「ATOKダイレクト」機能が用意されている。これはExcelファイル内にある情報をATOKから呼び出して、そのまま変換候補にするというもの。

たとえば、住所録、商品名、部署名など、頻繁に入力・参照するデータをルールに沿った形のExcel形式で保存し、このファィルを辞書ファイルの一部として利用することで、入力の際に「読み」や「表記の一部」を打ち込むだけで、指定した「単語」が候補として表示される。複数のフォルダにあるExcelファイルが利用できるので、辞書ファイル用にとひとつのExcelファイルに統合する必要がないので、いままでの資産を活かすことが可能だ。

標準のメニューはこのように、設定項目が多岐にわたる

利用者はあまり設定変更ができないように制限することが可能

サンプルで登録ファイルを作成してみた。略語などを登録しておくと、打鍵数を減らすことができ、生産性が上がる。また覚えておくことが面倒な、得意先の住所なども登録しておくといいだろう

変換システムが優れていることや、企業向けの機能が充実していることは理解してもらえたと思う。ここからは管理者による本製品の使い勝手の良さを紹介していく。

まずは「入力環境に関わる機能・メニューの設定・変更」を、管理者がまとめて行う機能について説明する。これは、タスクメニューの右端に表示されるATOKのアイコンを右クリックした際に表示される、設定メニューの表示を制限するというもの。これにより、辞書への単語登録を利用者が勝手に行えないように、「単語登録」の項目を非表示にするといったことが可能。組織内の入力環境を統一することで、表記のゆれや誤表記をなくすことができる。

また利用者の「ATOKプロパティ」の初期値の指定も行える。この機能を利用すれば、「校正支援機能」と「入力支援機能」を活用し、数字の表記をすべて半角入力にさせるといった指定なども可能になる。さらには、利用者の打鍵数と確定文字数のカウントをグラフで見ることもできるため、辞書ファイルの最適化の際には非常に参考となるはずだ。そのほか利用者が入力した単語(確定履歴)も記録・出力できるので、辞書ファイルのメンテナンス時には大いに役立つはずだ。

打鍵数が黄色、確定文字数が青色で表示されている。緑の点が入力効率なので、高い位置にあるほど、辞書ファイルが優秀ということになる

PCを使って文字を入力するということは、打鍵数が少ない方が利用者の負担も減るし、生産性は向上する。ここに大きく関わってくるのが、日本語変換システムということはほとんどの人に理解してもらえたと思う。もしわからなければ、携帯電話の日本語入力システムに置き換えればわかりやすいだろう。

携帯電話の変換システムはたいてい予測変換システムが採用されている。そのため、「きょ」と入力した時点で、変換候補の欄には「今日」、「今日は」、「今日も」、「京都」、「距離」などの「きょ」のあとに続きそうな文字列を表示してくれる。利用者はそこから選択するだけなので、2文字入力するだけで4~5文字ほどの文字を打ち込んだことと同じになる。

これは文章が長ければ長いほど、打鍵数を減らせるということなので、入力の負担は軽くなる。フルキーボードではない携帯の文字入力システムでは、この予測変換システムが大変重要で、賢くない辞書システムの場合、ひとつのメールを書くのも一苦労となってしまうのだ。そういった点を踏まえて、企業では独特の製品番号や、製品名など、いちいち入力するのは面倒な文字列も多くあるはず。そんなときに、Excelファイルを辞書ファイルのように使えるといった機能は、マニュアルの制作や、部品表の制作などを行う企業にとってはかなり便利な機能ではないだろうか。

余談だが「ATOK12」をリリースしていた1988年頃に、女優の内田有紀さんが出演し、「いれたてのおちゃ」という文章を変換する能力について説明していたテレビCMが放映されていたが、本製品で「いれる」と変換すると、「淹れる」の意味まで表示されている(CMが気になる方は動画サイトなどで「ジャストシステム 一太郎9 CM」と検索すると見つかるだろう)。

つまり、現在のATOKは変換能力だけでなく、利用者の使い勝手を考えたバージョンアップのフェーズに移行しているのではないかと思う。そして今回紹介した製品は企業向けの機能を強化している。今後、企業向け、個人向けという分け方だけでなく、企業用でもIT系企業向け、金融企業向けなどにカスタムされていくのかもしれない。すでに辞書ファイルの追加により医療用言語や原子力用語、さらには季語に特化させるなどの拡張はできるようなので、職業ごとのATOKへカスタム出来る日も近いのではと、今後の進化がますます楽しみになった。

■試用ソフトの仕様
製品名 ATOK Pro for Windows
対応OS Windows XP/Vista/7、Windows Server 2003/2003R2/2008/2008 R2
ハードディスク容量 325MB以上
価格 7,000円(税別)/1ライセンス(法人向けのライセンス販売のみ)