実際に文章を入力していくと、変換キーを押すたびに変換候補以外の文字が表示されることに気づくだろう。ことわざや慣用句、さらに敬語などを含んだ文章を入力すると、間違いやすい使い方などの注意が表示される。たとえば「情けは人のためならず」と入力すると、Ctrl+Homeキーで意味を表示できる。これは「情けをかけると人のためにならない」という意味にとらえている人がいるが、実際の意味は「情けをかけておけば、巡り巡っていずれは自分のためになる」ということ。このような、使い方を誤りやすい表現の解説が表示されることで、間違った日本語を書くことがなくなる。ほかにも指摘部分については、以下のようなものが用意されている。

慣用句・ことわざの誤り

ほかの敬語への言い換え

カタカナ語の誤り

わかりにくい否定表現

同一助詞の過剰な連続

これらの指摘は、文章を書いている際には気づかない場合があるが、変換キーを押すたびに自動的に注意を促してくれるため、文節ごとに正しい日本語を入力でき、文章を書き上げた後の校正が非常に楽になる。またATOKは、さらに文章の入力スピードを上げるシステムも用意されており、たとえば「きょう」と入力すると「2011/05/29」、「2011年5月29日」、「平成23年5月29日」といった本日の日付も候補として表示される。また、「よろしく」と入力すると「よろしくお願いします」といった候補が表示されるなど、推測変換が可能となっている。

「ひづけ」と入力しても本日の日付の候補が表示される

辞書ファイルで会社のルールに則った入力が可能

本製品が「企業向け」とされている一番の理由は、辞書ファイルの扱い方にある。まず辞書ファイルにあらかじめ単語登録しておくことで、会社のルールに則った入力が可能になるという点。似たような言葉は辞書ファイルに登録し、使用の可否を制限しておくと、社員の誰が入力しても同じ単語で入力できるようになるのだ。わかりやすくいうと、「ムービー」と「動画」は同じ意味で使えるため、入力者によってばらつきが出てしまう。そこで、辞書ファイルに「ムービー」という単語だけ使用可能にし、「動画」という単語は使用禁止設定にしてしまう。

これにより、「ここでムービーを再生します」は入力できるが「ここで動画を再生します」という文章は入力出来ないため、表記統一が可能になる。後で文章を校正するのではなく、入力時に校正を行ってしまうという機能なのだ。ほかにも、「行なう」と「行う」といった表記ゆれを防ぐため、「おこなう」と入力した際に変換候補ウインドウに注意を促すメッセージを表示させることもできる。これは個人向けのATOKでは必要のない機能だが、企業向けの製品としてはかなり有効なシステムといえるだろう。

「デジカメ」という略語は口語調に近いため、文章では禁止するといったこともできる

送り仮名も表記統一しているほうが読みやすいため、変換時に注意を表示する