京都大学 工学研究科合成・生物化学専攻 吉田潤一教授および永木愛一郎 同助教、金煕珍 同博士課程学生の研究グループは、マイクロリアクターによる保護基を使わない有機化合物の環境調和型合成手法を開発した。同成果は、英国科学誌「Nature Communications」(電子版)に掲載されたほか、NPG ネイチャー アジア・パシフィックのWebサイトに「注目の論文」として掲載された。

医薬品などの複雑な有機化合物を合成する場合、原料や中間体にいくつかの官能基が共存することが多く、特定の官能基のみを選択的に反応させることは一般的に容易ではない。そのため反応させたい官能基以外の官能基を保護した後に望む分子変換反応を行うことがこれまでの常識であり、分子変換を完了したのち保護した官能基を元の官能基に戻して(脱保護)、さらに次の分子変換を行うという手順が取られていた。

しかし、こうした保護/脱保護は合成に必要なステップ数を増加させ、合成効率を低下させるだけでなく、廃棄物も生み出すため、保護基を必要としない分子変換法が開発できれば、環境負荷の小さい合成が可能となり、その開発は合成化学の課題の1つとなっていた。

多くの有機化合物中に頻繁に見られる官能基であるケトンカルボニル基は、有機リチウム化合物と速く反応するため、それに影響を与えずに反応を行う場合には一度保護する必要があった。今回、研究グループでは、マイクロリアクターを用い、フロー系で滞留時間を3ms~1.5msと短時間かつ精密に制御することで、有機リチウム種を発生させ、それが分子内のケトンカルボニル基と反応する前に、後で加えたアルデヒドと素早く反応させるという分子変換を実現した。

ケトンカルボニル基を保護しない有機リチウム反応

フロー・マイクロリアクター

また、同法を利用して、天然物ポリフェノールの1つである「Pauciflorol F」の全合成を行い、複雑な化合物の合成にも有効であることが実証された。

このようなマイクロリアクターを用いた超高速反応による精密合成化学(フラッシュケミストリー)では、連続的に溶液を流しながら合成を行うため(フロー合成)、年間トンオーダーの製造も可能であり、医薬やファインケミカルズなどの工業的製造への応用が期待されると研究グループでは説明している。