京都大学の村田幸作 農学研究科教授の研究グループは、食料との競合や環境問題を引き起こさない海洋バイオマス(多糖:アルギン酸)からのエタノール生産技術を確立したことを発表した。同成果は、2011年度日本農芸化学会大会でトピックス賞を受賞した(東日本大震災のため学会中止・発表中止)ほか、エネルギー・環境関係の専門誌「Energy&Environmental Science」に掲載された。

化石燃料代替エネルギーの生産や地球温暖化問題の低減を目的に、デンプンやセルロースからのエタノール生産が世界各地で検討されているが、陸上のバイオマスを原料とした場合、その供給量、運搬、食料との競合性、さらにはセルロース分解時の環境負荷などの諸問題が解決されていなかった。そこで研究グループは、陸から海に視点を移し、海洋バイオマスからエタノールを生産する技術の確立を目的に研究を行った。

その結果、褐藻類の主成分であるアルギン酸(乾燥藻体の30~60%を占める。構成単糖:ウロン酸)からのエタノール生産技術を確立した。具体的には、体腔形成能と強力なアルギン酸代謝能をもつスフィンゴモナス(Sphingomonas)属細菌A1株の細胞改造と培養工学的解析により、アルギン酸からのエタノール生産を可能にした。好気培養下、2~3日間で13g/Lのエタノールの生産が可能であるという。

これにより、海洋バイオマス利活用の学術的基盤が構築されたこととなり、同技術は、日本のエネルギー問題と地球温暖化問題の低減、海洋開発と新規雇用の促進などの社会的な影響を与える可能性があると研究グループでは説明している。

なお、体腔(細胞表層に形成される開閉自在の孔)は、低分子物質から高分子物質まで呑み込む巨大な器官であるが、同器官の機能を応用することで、ダイオキシン分解、各種バイオマスからのエタノール・ブタノール・プロパノールのようなアルコール燃料、さらには他の有用物質生産への展開が可能となるという。

体腔形成細菌(スフィンゴモナス属細菌A1株)は、「口」を開けて巨大物質を呑み込む。今回、バイオテクノロジー技術(遺伝子工学・代謝工学・分子生物学・構造生物学・網羅的解析学)を駆使して細胞改造したA1株を用いて、アルギン酸(海洋バイオマス)をエタノールに転換する技術(第三世代バイオエタノール生産法)が確立された。生産性は、13g/L/2~3日となっている