九州大学先導物質化学研究所の高原淳教授および、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「高原ソフト界面プロジェクト」の小林元康グループリーダーは、材料表面にナノオーダの厚みを持つ歯ブラシ状の構造を作製し、水を挟んで貼り合わせるだけで繰り返し接着と剥離を行うことができる新しい低環境負荷型の接着法を発表した。同成果は英国王立化学協会出版の科学雑誌「Soft Matter」のオンライン速報版にて公開さた。

今回開発された接着技術は、材料表面に長さ数十から数百nmのひも状の分子(ポリマー)を歯ブラシのように生やすことで達成された。

材料表面から化学反応によって多数の小さな分子を連結させ、ポリマーを密集して生長させることで、厚み約100nmのブラシが得られ、同ポリマーにはスルホン酸やアンモニウム塩が結合している。このようにして、正の電荷(カチオン)を持つポリマー、および負の電荷(アニオン)を持つポリマーを生やした基板を用意し、この2枚の基板の間に水を1滴加えて貼り合わせると、プラスとマイナスのイオンが引き合う静電相互作用により2つの材料が接着される。

厚さ約100nmのポリアニオンとポリカチオンの分子ブラシによる接着の概念図。左の写真は、面積5mm×10mmで接着した基板に5.0kgのダンベルをつり下げている様子を示している

現在、接着面積が1cm2の時、約15kgの荷物をつり下げることが可能であり、同基板は水中に24時間漬けても剥がれることはなく、耐久性にも問題ないことが確認されている。また、接着した基板を塩水に漬け静電相互作用を断ち切ると、容易に剥がせ、両基板を水で洗って再度貼り合わせることで再び接着能力が復活することも確認されている。

同ナノオーダのブラシは、ガラスや金属、ポリプロピレンなどの合成樹脂など基板の種類に関わらず作ることができるため、これまで比較的難しかった異種材料同士の接着にも利用できるため、金属と合成樹脂との接着など従来の接着剤が苦手とする異種材料間の接着に有用な方法として期待されるという。特に、研究グループでは、水を使って貼り合わせるだけで繰り返し接着と剥離を行うことができる点は、医用材料や医療用デバイスに代表される機能性デバイス製造過程など有機溶剤が使用できない環境で活用できるものとの期待を寄せている。

なお、研究グループでは、今後はポリマーの化学構造やブラシの形状を工夫することでさらなる接着強度の増大が見込まれ、自動車部品などの接着にも応用が期待されるとするほか、より大面積で大量生産できる技術の確立を目指して研究を進める予定としている。