京都大学の芦田昇 探索医療センター臨床部心血管・循環器疾患研究部門特定助教、Anthony Rosenzweig ハーバード大学ベス・イスラエル・ディーコネス医療センター循環器疾患研究所教授らの研究グループは、炎症機構が酵素などを制御し、細胞の浸潤や増殖を促す働きを持っていることを発見した。同成果は、生物科学、化学、物理科学のあらゆる領域を対象範囲とするオンラインの学際的ジャーナル「Nature Communications」に掲載された。

炎症は生体維持に必須の機能である一方、ガンや心臓病などさまざまな疾患の原因とされており、炎症を抑制することによって疾患の改善を目指す治療・研究が多く行われているが、現在のところそれが十分な成果をあげているとは言いがたく、炎症と疾患を結びつける詳細なメカニズムのさらなる解明が求められている。

同研究グループでは、炎症反応において重要な働きをしている転写因子であるNFkBの活性制御に不可欠なIKKβに注目、血管における炎症の役割を解明するために血管内皮細胞特異的IKKβノックアウトマウスを作製してその解析を行ったが、その結果は意外なことに、IKKβの欠損によるNFkBの不活性化だけでは説明のつかない表現型を多く呈していたという。

この結果を受けて各種解析を行ったところ、IKKβがNFkBを制御する仕組みとは独立して、ガンや心臓病においてその関与が多く報告されている酵素「PTEN」や「Akt」を制御することで、細胞の浸潤や増殖を促す働きを持っていることが判明した。

IL-1βなどの炎症性サイトカインがNFkBを活性化する機構において、IKKβはキナーゼ活性を有する不可欠の分子である。またガン遺伝子産物であるAktは、その活性化における細胞膜への移動とリン酸化、その後の核内への移動が報告されている。今回の研究において、IKKβがNFkB活性化の役割とは別に、ガン抑制遺伝子産物であるPTENの抑制を介してAktの細胞膜への移動、ひいてはその活性を制御していることが明らかとなった

これは、ガンなどの疾患が炎症と直接に関わる未知の機構を紐解くだけではなく、生体にとって不可欠な仕組みでありながら医療において常に抑制されるべき対象とされてきた炎症が、細胞増殖などの正の役割に関与していることを示しており、炎症の新たな捉え方に基づいた治療薬の創出や、疾患別の抗炎症治療に結びつくことが期待されると研究グループでは説明している。