早稲田大学は5月13日、同大グリーン・コンピューティング・システム研究機構の設立およびグリーン・コンピューティング・システム研究開発センターの竣工記念のシンポジウム「未来を拓くグリーンコンピューティング」を同開発センターにて開催。基調講演として、同大グリーン・コンピューティング・システム研究プロジェクトリーダーの笠原博徳教授が登壇し「グリーン・コンピューティング・システムの将来」と題した講演を行った。
同センターは、経済産業省の「2009年度産業技術研究開発施設整備費補助金」の対象として建てられたもので、日立製作所やルネサス エレクトロニクス、富士通、NEC、トヨタ自動車、デンソー、オリンパス、三菱電機などの企業と連携し、「太陽電池で駆動可能で、冷却ファンが不要な超低消費電力・高性能マルチコア/メニーコアプロセッサのハードウェア、ソフトウェア、応用技術の研究開発」を目的としているほか、企業と連係した最先端の研究に学生が携わることで、社会に役立つ人材育成を行うことも目的としている。
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基調講演に登壇した同大グリーン・コンピューティング・システム研究プロジェクトリーダーの笠原博徳教授 |
同センターの概要は地上7階建てで、屋上には太陽光発電システムが設置されている。3~4階部分が企業との産学連携フロアで、5~7階がオープン型の大学の研究室となってるほか、1階にはライセンスや特許などを扱うチームの在籍しているという。
こうした産学連携のもと、「超低消費電力のメニーコアの開発。つまり、システムの中核を開発することを目的としている。これによりサーバ分野の国際競争力確保や情報家電や自動車の低消費電力化などに結び付けたい」(笠原氏)とする。
笠原氏の研究室では、すでに富士通やルネサスなどと連携し、自動並列化コンパイラ協調型マルチプロセッサ(Optimally Scheduled Advanced Multiprocessor:OSCAR)の研究開発を行ってきており、半導体の国際学会であるISSCCなどでの成果発表も行っている。
笠原氏は、OSCARの研究について、「すでにマルチコアプロセッサは家電からゲーム、カーナビ、PC、スパコンと幅広く活用されている。この数年以内に、搭載コア数は16、32と増加するが、我々は次世代の低消費電力時代をリードできるプロセッサの開発を目指す」とする。
しかし、メニーコア化してもプロセッサの処理性能はリニアには増大していかない。そうした課題を解決することを目指し、OSCARでは自動的に並列化を行うコンパイラの開発も進めており、「プロセッサが活用されるアプリケーションを理解して、システムのソフトウェアとハードウェアを融合した形の開発を進める」と方向性を示す。
OSCARに用いられるコンパイラは、粗粒度タスク並列化、ループ並列化、近細粒度並列化によりプログラム全域の並列性を利用するマルチグレイン並列化機能により、従来の命令レベル並列性より大きな並列性を抽出し、複数マルチコア環境での速度向上が可能なほか、マルチコア処理ではメモリを効率よく使う必要があるが、同コンパイラでは、ローカルメモリへのデータ分割配置やDMAコントローラによるタスク実行とオーバーラップしたデータ転送によるメモリアクセス・データ転送オーバヘッドの最小化により、メモリのデータ位置をできる限り動かさないことによる高性能かつ省電力を実現している。
さらに、コンパイラによる低消費電力制御機能を用いたアプリケーション内での細かな周波数・電圧制御・電源遮断による消費電力の削減も実現している。
加えて、すでにメーカーなどが保有している1プロセッサ用コンパイラと連動させて並列コンパイラを自動生成できる規格を作っており、同規格により並列化コンパイラを活用することで、さまざまなアーキテクチャのプロセッサが使えるようになるとしており、例えばIntelのクアッドコアXeonプロセッサ上でOSCARコンパイラを用いた場合、Intelのコンパイラ比で2.1倍、IBMのPower 6(4.2GHz)ベースSMPサーバ上では、IBMコンパイラ比で3.3倍の速度向上ができたという。
同氏によれば、ソフト側で制御することで、256コアや1024コアといった膨大なコアが搭載されても、ハードをシンプル化して制御することが可能となるとしており、ホモジニアスでもヘテロジニアスの環境でも並列化が可能であり、これにより、小さな太陽電池パネル1枚でも駆動が可能な高性能なコンパクトサーバの実現が可能となるとしている。
そして、今後、同センターでこうした研究開発を進めることで、「低消費電力化で環境を守る。病気から人命を守る。そして、産業競争力を守るという3つのコンピューティングシステムの実現が可能となる」ということを強調した。