国立天文台の島尻芳人研究員、川辺良平教授等を中心とするを国際研究チームは、質量の大きい星から放出された紫外線などがオリオン座分子雲における星形成を誘発している可能性があることを発見した。
星が生まれる場所は大きく分けて、主に低質量(太陽の質量と同程度の質量)星のみが生まれる暗黒星雲と呼ばれる分子雲と、低質量星から大質量(太陽の質量より10倍程度重い)星までが生まれる巨大分子雲と呼ばれる分子雲の2種類に分類される。暗黒星雲の領域では、1つのコア(密度が高いガスの塊、星を生むもと)から1つまたは2つの星が生まれることが知られている。これは「孤立した星形成モード」と呼ばれるモードを通して生まれることが知られており、過去10数年間のおうし座分子雲等に対する系統的な観測的研究により、「コアの自発的重力収縮→中心星への質量降着→原始星(誕生初期の星)から極方向に高速(数km/s~数百km/s)でガスを吹き飛ばす(分子流)」という孤立した星形成モードでの進化シナリオが確立しつつある。一方の巨大分子雲では星団形成、大質量星形成といった様々な星形成モードが起きている。
星団形成や大質量星形成が起きている領域の周辺には分子流や別の大質量星があることから、星団形成や大質量星形成を引き起こすためには、分子流や別の大質量星が必要だと考えられている(誘発的星形成)。星団形成領域は、狭い領域に多くの星が生まれているため、より細かい構造を詳細に調べる必要(高い空間分解能が必要)がある。一方、大質量星の影響は広範囲に渡るため、広い領域の観測(広域観測)が必要になる。
つまり、誘発的星形成の観測的研究には、高い空間分解能による広域観測が要求されるが、これまでは、このような観測は技術的に難しかったため、誘発的星形成の観測的研究は「孤立した星形成」の観測的研究と比べ遅れていた。
近年、受信機の性能や効率よくデータを取得する観測手法が進歩した。例えば、野辺山45m望遠鏡はミリ波と呼ばれる電波を観測できる望遠鏡の中で世界最大級の口径を持ち、高い空間分解能で観測を行うことが出来る。また、野辺山45m望遠鏡に搭載されているBEARS受信機は、広域観測を効率的に行なう事が出来るほか、観測手法も宇宙からの電波をより効率的に観測する手法(On-The-Fly法)も開発され、従来の観測手法と比べ、数倍の効率でデータを取得することが出来るようになった。
オリオン座分子雲は地球から1300光年ほどの場所にあり、多くの星が今現在生まれている場所として有名で、研究チームはこの場所に対して、野辺山45m電波望遠鏡および南米チリにあるアステ望遠鏡を用いて、一酸化炭素分子とダスト(塵)の高い空間分解能による広域のイメージ画像を得る事に成功した。一酸化炭素分子のイメージ画像を解析することで、宇宙空間にあるガスの分布や速度構造を調べることが出来るほか、ダストのイメージ画像を解析をすることで、分子雲コア(星を生むもととなる密度の高いガスの塊)の分布を調べる事が出来る。今回、これらのイメージ画像は、数十時間で取得することが出来たという。
左がオリオン座分子雲の中間赤外線(2MASS)のイメージ画像。既に生まれている星の分布を調べる事が出来る(提供:2MASSプロジェクト)、右が野辺山45m電波望遠鏡によって取得された一酸化炭素分子のイメージ画像。このイメージ画像を詳細に解析することで、星を作る材料である分子ガスの分布や運動を調べることが出来る(提供:国立天文台) |
研究チームは、今回取得したダスト(塵)のイメージ画像と一酸化炭素分子のイメージ画像を使って、分子雲コア(高い密度のガスの塊)の分布と分子ガスの分布および速度構造を詳細に調査。その結果、オリオン座分子雲中にある大質量星から放出された紫外線が周辺の分子雲コア(高い密度のガスの塊)に影響を与え、分子雲コア内での星形成を誘発している可能性があることを発見した。
左がアステ望遠鏡によって取得されたダスト(塵)のイメージ画像。このイメージ画像を詳細に解析することで、星を作るもととなる密度の高いガスの塊(分子雲コア)の分布を調べる事が出来る。右が野辺山45m電波望遠鏡によって取得された一酸化炭素分子のイメージ画像。このイメージ画像を詳細に 解析することで、星を作る材料である分子ガスの分布や運動を調べることが出来る(提供:いずれも国立天文台) |
誘発的星形成は超新星爆発、大質量星からの紫外線、双極分子流などが周辺のガスの塊(分子雲、分子雲コア)と衝突することで、星形成を誘発・促進するメカニズムと考えられている。この誘発的星形成は大質量星の形成、星団形成といった様々な星形成の形態に関連していると考えられているので、誘発的星形成は星形成のメカニズムを知る上で重要な過程だと言える。
今回の成果は今後、誘発的星形成の解明を行う上で重要な結果を得ることが出来たが、まだ、大質量星の紫外線などの影響を受けることで、具体的にどのような物理プロセスで星形成が誘発されるのかといったことは明らかになっていないこともあり、研究チームは現在、南米チリに建設中のアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(アルマ望遠鏡)を用いて、より詳細な描像を得る事を計画しているという。
野辺山45m電波望遠鏡によって取得された一酸化炭素分子のイメージ動画。電波の観測では、ドップラー効果により、速度ごとのガスの分布の違いを調べる事が出来る。このイメージ動画を詳細に解析することで、星を作る材料である分子ガスの分布や運動を調べることが出来る(提供:国立天文台) |