東芝は、CMOSプロセスを用いた車載用ミリ波レーダー向けに、デジタル・アナログ混載位相同期回路を用いたFMCW(Frequency Modulation Continuous Wave:周波数変調連続波)方式に対応した周波数シンセサイザを開発したことを明らかにした。同成果については、2月20日より24日まで米国にて開催されている半導体の国際学会「国際固体素子回路会議(IEEE International Solid-State Circuits Conference:ISSCC 2011)」において22日(米国時間)に発表された。

車両の衝突緩和などを目的とした77GHz帯ミリ波車載レーダーが実用化されているが、高周波特性に優れた化合物半導体やCMOSを用いた信号処理回路などの複数の部品を組み合わせているため、レーダー装置の小型化、低価格化が難しく、低価格化、小型化を実現するためには、CMOSプロセスによる1チップ化が求められていた。

CMOSに適したレーダーの方式としては、FMCW方式があるが、これは、送信する信号の周波数を時間と共に線形に変化させ、対象から反射してきた受信信号と送信信号の周波数の差から距離や相対速度を検知する方式。検出できる距離分解能は変調帯域に、速度分解能は変調周期に、そして検出する精度は周波数を変化させる線形性に大きく影響する。従来ではアナログ位相同期回路を用いてFMCW信号を出力していたが、これらの特性を満たすためにはDDFS(Direct Digital Frequency Synthesizer)や高周波基準信号源等の高価な回路を追加する必要があった。

今回、東芝ではCMOSの利点を活かし、デジタル回路とアナログ回路を組み合わせた位相同期回路を用いてFMCW信号を出力する周波数シンセサイザを開発した。高精度が要求される周波数変調はデジタル信号処理を用い、高線形性が要求されるスムージング部はアナログ回路を用いることで線形性を改善することに成功した。

また、同シンセサイザを用いた試作チップ(チップ面積は1.7mm2、電源電圧は1.2V、消費電力は152mW)では、DDFSなどを用いた場合と同等の最大1.5GHzの変調帯域、1ms~10msの変調周期のFMCW信号の出力および0.04%以下の線形性誤差を、安価な26MHzの基準信号源を用いて実現できることが確認できたとのことで、これにより、車載用ミリ波レーダーに用いるFMCWシンセサイザ部にかかるコストを、従来のDDFSなどの外部回路を用いたシンセサイザと比較して約1/4に低減することが可能となると同社では説明している。