CGがスタントマンを使った撮影の在り方を変えた

――『デス・レース2』のアクションシーンでは、前作同様に「スタントマンに死者が出てもおかしくない」というほどの激しさを感じました。

大迫力の横転シーン
(c) 2010 Universal Pictures Productions GmbH and Moonlighting Death Race Films C.C. All Rights Reserved.

ビール「ありがとうございます。南アフリカで経験があるスタントマンを採用するのは非常に難しいのです。実は初めてこの作品のようなスタント撮影に参加するという人もいました。映画のオープニングで、イエローのムスタングが高速で走るシーンがあるのですが、実はあのシーンを演じたスタントマンは、映画のスタント初挑戦だったので、あらゆる事をゼロから指導したのです」

――『デス・レース2』で、ビールさんが最も注力したアクション/スタントシーンは、どの部分なのでしょうか。

ビール「全シーン全力ですよ(笑)。予算、人材、資材、時間、これら全てが足りなくて大変な撮影でした。撮影期間は30日間しかなかったんです」

――アクション映画の撮影期間は、通常どのぐらいなのでしょうか。

ビール「最近の『007』シリーズでは、9カ月はかけると聞きました。それが『デス・レース2』では、リハーサルも2カ月しかできなかったかのです。現地に行って、人を集めて、車の用意をしてから、爆発シーンや実際の車のアクションシーンは全部で1週間で撮影しました」

――本編のほとんどがアクションシーンという映画なのに、たった1週間だけで、アクションシーンを撮影したのですか! ところで、この作品で最も危険な撮影は、どのようなものだったのでしょうか。

とにかく全編、激走、銃撃、激突、回転、横転、爆発の連続。これらのアクションシーンが1週間で撮影されたという
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ビール「危険なシーンというのは、ありません。最終的に映像で観ると危険に見えますが、スタントマンを使って撮影する時は、安全面を十分考慮しているので、全く危険はないのです」

――スタントを使った過激なアクションシーンの撮影で、どのような部分に注意して、安全を確保されたのでしょうか。

ビール「何が危険になりうるかというのを予測して、絶対に危険が及ばないようあらかじめ入念に準備するということを守るだけです。ですから、この作品で、クルーはひとりも怪我しませんでした」

――身体を張ったスタントに対して、CGがあります。現代のハリウッドアクション映画における、CGの功罪をビールさんはどうお考えですか。

ビール「CGのおかげで、昔は不可欠だったことが必要なくなって良かったと思っています。例えば、20階のビルから人が落ちるというシーンの場合、昔は命綱を体に巻いて何度も人を落下させて撮影していました。ところが、今は2階から人を落とすというのをワンテイクだけ撮影して、CG合成すれば済みます。また、1000人の群集がいるというシーンが必要なときは、20人ぐらい集めて撮影して、CGでコピーすればあっという間に1000人のシーンが完成します」

――CGの普及はアクション映画にとって良い部分ばかりなのでしょうか。

ビール「CGのおかげで、お客さんが映画の映像に求める過激さの基準が高まり過ぎているというのは感じますね。昔は、初期『007』シリーズのアクションで満足していましたが、現在では難しいでしょう。映画のジャンルは違いますが、『ウェスト・サイド物語』を覚えていますか? 昔は、皆あの映画を10回は観たものです。今の観客は、"なんでそんなもの10回も観るんだ?"と思うでしょうね。時代とともに、お客さんの目が肥えたというのは感じます。今は、3Dの時代になってしまいましたしね」

橋から落下するパトカー。このようなシーンの撮影でも安全は確保されているという
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――そういったCG全盛の時代ですが、最近のスタントたちの状況なども変化しているのでしょうか。

ビール「私はオールラウンダーで、何でもやるので、時代が変わっても仕事内容に違和感はありません。カーアクション、飛行機、ボート、ヘリ、爆発シーン、馬などの動物のシーン、とにかく何でもやりますから。でも、最近では"このアクションのスタントしかやらない"という専門の人が増えてきたような印象があります。『デス・レース2』の撮影でも、車運転専門のスタントマンや、衝突専門のスタントマンなどがいました」

――本作をどう楽しんで欲しいですか。

ビール「最初のムスタングとパトカーのチェイスシーンと、最後のデス・レースのシーンはとにかく最高のアクションに仕上がってるから、楽しんで欲しいですね」

――今後、ビールさんは、どのようなプロジェクトに参加していきたいのでしょうか。

ビール「可能なら、インドや日本の映像業界に、自分の技術を伝授したいと思っています。実際、インドでも2本の映画に関わりました。私は、日本で撮影された、スティーヴン・セガール主演の『イン・トゥ・ザ・サン』にも参加しています。これらの作品はアメリカ映画だったのですが、今度は、インド映画や日本映画の制作に参加したいですね」

ビール氏が好きな映画は『地獄の黙示録』。嫌いな映画は「たくさんあるよ!」とのこと

映画『デス・レース2』のDVD/Blu-rayは2011年2月2日、ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメントより発売。価格はDVDが2,980円、Blu-rayは3,990円。

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