地方都市の持つ「閉塞感」と「開放感」を映す

――この作品は群馬県高崎市が舞台ですが、作品からは、地方都市の閉塞感のようなものも強く感じました。その部分は意識されたのですか?

金子「それを閉塞と捉えるか、世界の広がりと捉えるかは個々の問題ですね。閉塞感はあるのだけど、開放感もあるのではないかと僕は思います。この作品では、どのようなものも、一面的でなく多面的に描きたかった。悪だけでなく善があるように、カメラも俯瞰で観たり、主観で観たりするという試みをしています。東京や大阪のような大都市にはない高崎の空気感にこだわって、喫茶店も街角も、東京で撮れるパートでも高崎で撮影しました。その独特の感じが、閉塞感や開放感として出ているのだと思います」

『ばかもの』は、ほぼ全編が群馬県 高崎市で撮影されている
(C)2010「ばかもの」製作委員会

――「試み」と言われましたが、金子監督はキャリアを重ねられてきて、撮り方で変化してきた部分などはあるのでしょうか。

金子「これまでよりも、より役者の演技に委ねるというか、感情を引き出す演出のほうに重点を置いているような気はしますね」

――『プライド』もそうですが、最近の金子監督は大フィクションよりも、人間を描くことにシフトしてきているのでしょうか。

金子「それはあるかもしれません。次の作品も『ポールダンシング・ボーイズ』という少年の話ですし、その次の作品は少年スパイの話です」

――金子監督は、休まずに映画を撮り続けているという印象があります。

金子「僕は幸運な事に僕自身が映画ファンで、どのジャンルの映画も好きなんです。だから、どのようなジャンルの映画でもこだわらずに自分の作品として撮れるので、作り続けていられるのだと思います」

――これから公開される『ばかもの』を、どのように楽しんで欲しいですか。

金子「ヒデというバカな若者を通して、人間の弱い部分を肯定しつつ、寄り添いつつ、突き放しつつ観ていただいて、最終的には生きていくのは楽しいという希望を持っていただけたら嬉しいですね」

映画『ばかもの』は2010年12月18日より、有楽町スバル座、シネマート新宿他全国ロードショー。

撮影:石井健

(C)2010「ばかもの」製作委員会