自分自身を知った上で夢を追いかけろ

阿部氏によれば、彼が好きなタイプのクリエイターは圧倒的に真面目で素直な人物だという。それは決してプロデューサーの言いなりになるという意味ではなく、いつまでも変わらずにモノづくりの情熱を持ち続けるという意味だ。岩井俊二、山崎貴、本広克行、羽住英一郎、小泉徳宏など、そうやって阿部氏によって発掘されたクリエイターの数多くは、現在の日本映画の中核を担っている。「プロデューサーである僕が才能を認めればそれでいいんです。どんなクリエイターにだって"最初"はあるわけですから。その"最初"を後押ししたいんです」

だが、モノづくりにおいて、どうしても避けて通れないのが「自分のやりたいこと」「自分がやらなければいけないこと」の矛盾である。クリエイターはどうやってそのバランスを自分自身で取ればよいのだろうか。「そこはなかなか難しいですよね。今、映画という言葉を口にした場合、商業性は避けて通れないものです。しかし、かといって独創性をないがしろにすることは自分たちの首を絞めるようなもの。何をするにもお金がかかった昔に比べると、今はパソコン1台で高度な編集がすぐにできるし、それをYouTubeで全世界に発信することもできる。映像で自分を表現することのハードルは低くなってきていることは確実ですよね」

さらに阿部氏によれば、クリエイターにとってなにより大切なのは「自分を知ること」だという。数えきれないほどのクリエイターを見てきた阿部氏が導きだした結論は非常に興味深い。「つまり、自分自身を知った上で夢を追いかけなさい、ということです。好き嫌いだけではなく、自分の向き不向きを知らなければ、夢は夢のままで終わってしまいますから。では、自分を知るためにはどうすればいいのか。それはやはり出来る限りいろいろなモノを見て、人の話を聞いて、知識や経験を貯え、常に自分自身に問い続けていくしかありません」

表現を極めつつ、自分自身と向き合うこと。なによりそれがクリエイターにとって必要な資質なのではないだろうか。もちろん、それから先もずっと自分との対話は続いていく。「当たり前のことかもしれないですが、自分を表現した上で大事なのはそこから先、自分が何を目指したいのか、です。映画というジャンルでいえば"商業監督になってお金を儲けたいのか"、"自主制作でもいいからひたすら表現を極めていきたいのか"。クリエイターとして最終的に自分がどこを目指したいのかを見つめると共に、その道はぜひ自分で見つけて、自分で選んでほしいですね」

なお、阿部氏がこれまで歩んできた半生を語ったインタビュー記事はこちら。

撮影:糠野伸