デジタルハリウッド大学は、秋葉原メインキャンパスにて、公開講座「製作総指揮・監督が語る、映画『RAILWAYS』ができるまで」を開催。映画制作の裏側について、製作総指揮の阿部秀司氏と監督・脚本の錦織良成氏をゲストにレクチャーを行った。

製作総指揮の阿部秀司氏は、広告代理店を経て1995年に映像制作会社であるROBOTを設立。プロデューサーとして岩井俊二監督『Love Letter』(1995)や山崎貴監督『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)、加藤久仁生監督『つみきのいえ』(2009)など、多数のヒット作を手掛けている。一方、監督・脚本担当の錦織良成氏は、2002年に自身の出身地である島根を題材にした『白い船』、2008年には雲南市を舞台にした『うん、何?』、『ミラクルバナナ』などの作品を手がけた映画監督だ。

映画『RAILWAYS』

(C)2010『RAILWAYS』製作委員会

中年男性が主人公!中高年のための映画を作るために

製作総指揮の阿部秀司氏

昨今では原作ものが主流となり、プロデューサーも原作の映画化権確保に奔走する映画業界。そんななか本作は、錦織監督の持ち込みによる完全オリジナル脚本だ。珍しいケースにも関わらず、プロデューサーとして製作を決めた理由を、阿部氏は「普通の中年男性が鉄道運転士を目指すストーリーが面白かったんです。僕も鉄道運転士になりたい時期がありましたし、中年に勇気を与える話であることにも惹かれました」と語った。また錦織監督も「日本では売るのが難しい分野にも関わらず、阿部さんの『こういった中年男性が主役の映画は他にないからあえて作る』という言葉に勇気づけられました」と振り返った。

本作の重要なポイントとなる一畑電車(バタデン)の場面。一畑電鉄テクニカルアドバイザーの特別解説によれば、撮影に利用した車両「デハニ50形」も映画化にあたり80年前のオリジナルデザインへと戻されたそう。さらに、走行シーンでは、これまでにない手法で撮影されており、コアな電車ファンをも唸らせる工夫が施されている。「企画を思いついた際に(電車関連の)他の作品を見たのですが、電車の走行シーンはシュミレーターを合成した画や止め映しの画しかありませんでした。調べてみると、民間人は運転席に入れない規則があったので、企画を持ち込む前に1年以上かけて一畑電車や国や行政と折衝し、撮影許可を取りました。合成やCGを使わずに運転しているように見せられたのは、みなさんの協力のおかげです(※実際には運転していない)」

会場の学生に向けて、「ぶつかった時の言い訳を考えるよりも、面白いことが何かをまず考えて」と暖かい激を飛ばした錦織監督

キャスト面でも中井貴一や奈良岡朋子など、脚本を魅力的に伝える面々が選ばれている。撮影時には1カット1テイクで仕上げるよう意識したそうで、中でもそのふたりが演じる母と息子のシーンが、錦織監督のお気に入りなのだという。「撮影現場では、彼らが脚本を気に入って参加してくれたという信頼が支えでした。映画は、いい作品にしたいという想いが全員にないとやっていけません。僕も1カットごとによい画が撮れたと感じることが、翌日の大きな原動力でした」

映画ビジネスの仕組みと"監督"という職業

錦織監督

今回の講演では、作品解説のほか映画製作の現状とプロデューサーの役割なども具体的に語られた。阿部氏は、実際の企画書を例に「まず大切なのは配給会社の決定です。映画を商品と考えると配給会社はその売場となるだけに、映画製作にかけた資金をペイできる店舗と営業力のある会社でなくてはなりません。逆に、そこさえ決まれば映画は半分完成したと考えてもいいと思います」と解説した。続けて、配給後のスキームに関わる委員会方式についても「映画制作においてテレビ局は大きな存在です。かつてテレビ局は、自社で優先的に放送するために映画制作に参入しましたが、今では放送事業外収益として大きなビジネスとなっています。そのため協力すれば、我々にはプロモーションが容易になるメリットが生まれるのです。今回は小学館や博報堂なども参加しており、各々が分担して資金を受け持つことでビジネスは大きくしていけるんです」と説明した。

また、ベテランですら方向性の見極めが難しい映画宣伝については、コンセプトなどをまとめた宣伝企画書を例に、「サブタイトルで興行収入が変わるのでかなり考えました」と本音をこぼした。「最終的に、わかりやすく伝わる『49歳で電車の運転士になった男の物語』としました。映画館に来ないと言われるM2~M3層(35歳以上)を狙っているのですが、実は彼らは映画館に来ないのではなく、見に行きたくなるような作品がないのです。だからこそ、その市場にアピールしたいと考えています」

会場の学生たちに対し「ハードルは高いけれど、紙と鉛筆とすごく面白いシナリオがあれば監督になれる」とパワフルに伝える阿部氏

講演の最後に両氏は、映画を通して伝えたいこととして、「監督はスポーツ選手と違って表面上は誰でもなれるもの。でも本当に監督向きの頭脳かどうかはわかりません。だからこそ、監督仕様の頭脳にする訓練として勉強が必要なのです。勉強とは嫌いな事をやることだと私は考えています。そこを頑張ってほしいですね」(阿部氏)と述べ、錦織監督は「監督を志す人は、今まで見たことない分野や作品にも触れた方がいいですよ。誰でも人は歳を取りますから、余生を表現しようとする我々世代の作品もぜひ若い人たちに見てほしいです。監督とは、道具面では誰でもすぐになれるのですが、大きな作品は周りが認めてくれなければ作れません。監督としての信頼が得られて初めて仕事ができるのだと思います」と語った。