社内のSAP統合プロジェクトが実践の場に

では、このようにグローバル化への対応が必須課題である日本IBMのSAPビジネスを担当するコンサルタントは、どのような資質が求められるのだろうか?

富永氏は、「これまでのSAPコンサルタントのキャリアパスは、カスタマイズのスキルを身につけ、業務プロセスを習得し、最終的にプロジェクトマネジメントを目指すという流れだった。しかし、今はさらに"グローバル・マネジメント"力が必要とされている。また、SAPシステムは企業のさまざまな基幹システムに直結しているため、コンサルタントは経営の観点で物事を見ることも覚えなければならない」と説明する。

そのほか、基幹システムは24時間365日の稼働が当たり前であることから、そのための保守体制も考慮したプロジェクトを計画することが重要だという。「いろいろなアイデアを持った人材を必要としている」

SAPコンサルタントにとって業務知識は必要不可欠である。そのため、業務に熟知した人事やプランニングなどのバックオフィス部門の人をコンサルタントに配置転換するケースもあるという。その逆も然りで、コンサルタントが業務を学ぶためにバックオフィスで数年間働いて戻ってくることもある。

こうした教育は海外のオフィスにも及ぶ。技術面では米国が進んでいるということで、ツールなどの学習を目的としたスタッフの派遣が行われている。また、開発を中心とするインドや中国にもスタッフを派遣しているという。

垂水氏は「とにかく現地に行ってみないとわからない。われわれは世界にオフィスを持っており、各国のスタッフと連携してビジネスを行っている。したがって、異文化に触れることが当たり前の状況だが、それでも難しいことはある」と、グローバル化時代における異文化コミュニケーションにおいて実践がいかに重要かを訴える。

前述の社内プロジェクトは、SAPコンサルタントの育成という意味でも有意義である。同氏は、「170ヵ国、40万人の従業員が利用する企業がグローバルシングルインスタンスを行うプロジェクトはこれまでないはず。よって、そこから学ぶノウハウの価値は高い」と語る。

IBMは世界規模で、人・プロセス・システムといった経営資源を統合化・最適化することで企業競争力を強化するためのサービス「IBM Global One - A Unified Global Instance of SAP」を提供している。同サービスでは、戦略策定のためのコンサルティングからシステム構築・運用までを一貫して提供する。

SAP導入の判断は経営方針に照らし合わせて

最後に、SAPシステムを導入している企業へのアドバイスについて聞いてみた。

富永氏は、「SAPシステムは90年代から非常に変わっていることを知ってもらいたい」と話す。まず、SAPのパッケージそのものが進化している。加えて、導入の方法やSAPシステムを支えるテクノロジーも進歩しているとともに、コンサルタントも増えている。

例えば、同社を含むSAPパートナーはさまざまなテンプレートを用意しており、その利用によって導入期間とコストを削減することが可能だ。

また、「SAPシステムはシンプルにして、必要な機能はSOAで繋ぎ、作りこんでいくというスタイルが増えている」と同氏。同社では、画面周りをSOAによって作りこむことで、使い勝手を向上している。

これにより、カスタムシステムが当たり前だった小売や卸しといった業種で案件が決まっているという。「SOAによってSAPシステムを使いやすくすることで、これまで提案しきれなかった業種の企業での導入が行えるようになってきた」

さらに、「SAPシステムをレガシーシステムの置き換えととらえるのではなく、自社の経営方針から見て必要なものかを検討することが大切」と、同氏は話す。

長らく、グローバル化は日本企業にとって課題とされてきたが、国内市場の伸び悩みや新興国の台頭から、今年は全社を上げてグローバル化に取り組むことを標榜している企業が多い。そんなグローバル化を積極的に進める企業にとって、SAPシステムは有益な手段であり、日本IBMのノウハウは利用の価値が大きいだろう。