情報通信研究機構(NICT)および三菱電機は、ミリ波帯(30GHz~300GHzの周波数帯)を用いた航空機-地上間の高速無線通信システムを開発、高度8000mの航空機と地上の間で従来の30倍以上となる100Mbpsの双方向通信実験に成功したことを発表した。

航空機用ミリ波帯無線通信システムの運用イメージ図

航空機内でインターネット通信を実現するシステムとして、現在、航空機と地上間をマイクロ波(12/14GHz帯)を用いた静止衛星回線で接続されたシステムが実用化されているが、より大容量の通信による航空機内での動画や音楽を視聴することが可能な高速インターネット通信へのニーズが高まってきている。

航空機などの高速移動体の無線通信にミリ波帯を適用するためには、長距離のミリ波帯通信を実現するアンテナの高性能化、移動体に搭載するための装置の小型・軽量化、航空機の姿勢に追随して電波の放射方向を高速に制御するアンテナ制御技術、ミリ波帯を用いた移動体通信に適したネットワーク技術が要求される。そこで、NICTおよび三菱電機は、共同でこれらの技術を開発、40GHz帯を用いて100Mbpsの伝送が可能な航空機用大容量無線通信システムを試作した。

まず、地上局に固定されたアンテナの前面に設けた小型軽量の反射板の向きを制御することで、地上から航空機へ電波の放射方向を制御する技術を開発。これにより、アンテナ本体の向きを制御する従来の方法に比較して可動部分が軽量化でき、地上局の小型化を実現した。

地上局アンテナ部分の外観写真

また、航空機の姿勢の変化が比較的遅い進行方向に対しては機械的制御を行い、姿勢の変化が比較的速い左右方向に対しては電波の放射方向をAPAA(Active Phased Array Antenna)で電子制御する技術を開発したほか、ミリ波帯回路部にMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)チップセットを開発し、機上局の小型・軽量化を実現した。

機上局アンテナ部分外観写真(左:送信、右:受信 電波の放射方向は上方向)

機上局アンテナの航空機機体底部への設置状態

さらに、航空機の移動に応じて接続する地上基地局を切り替えるハンドオーバ制御と、ミリ波帯無線回線の伝送可能帯域を伝搬距離に応じて変更する無線回線制御とを連携して、IP通信を継続させる高速移動ネットワーク技術を開発した。

なお、NICTと三菱電機では、これらの技術について、5年後の実用化を目指しており、これに向けて航空産業や移動体の無線利用企業などへ積極的に導入の支援を行う予定としている。