富士通は5月13日、東京国際フォーラムで開催されている同社のイベント「富士通フォーラム 2010」において「夢をかたちに - shaping tommorow with you -」と題した山本正已社長による基調講演/特別講演を開催。同社が取り組む「人」を中心とした社会の創出に関するICTの側面における技術的背景や施策について説明を行った。なおこの基調講演は同氏社長就任後初めてパブリックに登場する場。決算発表から間もないタイミングとなったこともあってその注目度は高く、会場となった収容人数約1500人のホールはほぼ満席となった。

IT予算の4~5割は新規開発に向けるべき

富士通 執行役員社長 山本正已氏

講演の冒頭で山本社長は、「現在の情報システムは、セキュリティ対策や事業継続性の確保、老朽化といった問題を抱えていながら、運用・保守費用の増大で新規開発(戦略的投資)に踏み切れない」といった、多くの企業が直面している課題に触れ、普及期を迎えつつあるクラウドがその役割を担うことをあらためて強調した。同氏は「およそ7割が運用・保守に割り当てられている」という企業のIT予算を、クラウドを活用すれば圧縮できることを説明。これによって「本来必要とされる戦略的投資に対する(IT予算の)割合を4~5割に引き上げることが可能だ」という考えを示した。

このようなユーザーの課題に対する同社の答えは「トラステッド・クラウド」と呼ばれる信頼性をベースとした大規模仮想化プラットフォーム。国内で初めて情報セキュリティ格付け「AAAis」の評価を取得し順次設備を増強している館林データセンターを核に、世界90ヵ所のデータセンター拠点(サポート拠点は48ヵ所)を活用しながら、ユーザー企業のサービスをグローバルにサポートできる同社の体制をアピールした。

グローバルなサポート体制

クラウドは「"技術"から"人"への変化」の象徴

また山本社長は、「クラウドは、もはやコスト削減だけが目的ではない」として「"器"(クラウド)に何を乗せるのかが重要になってきている」と語り、プライベートクラウド、パブリッククラウドを融合した「ハイブリッドクラウドインテグレーション」を推進することを表明。センサー技術なども取り入れたクラウド環境によって、医療や農業、教育、エネルギー、交通といった様々な分野に対して「新しいビジネスの創出を支援する」としている。

同氏は、「生産性向上(1990年~)」→「ビジネスプロセス変革(2000年~)」といった、これまでのICTに求められた役割の歴史に触れ、2010年以降は「実践知(知の創造や行動支援)」がICTの新たな役割になると説明。クラウドコンピューティングは、それまで"技術"中心であったICTについて、その中心が"人"に移ってきている変化の象徴であり、今後は「蓄積された膨大なデータを人にとって価値のあるものにする」ことが重要であるという見解を示した。

その考えをコンセプト化したものが「Human Centric Intelligent Society」。同社は今後10年間、「ICTはリアルの写像である」という考えのもと、トラステッド・サービス・プラットフォーム上の「バーチャルな世界」と現実社会の「リアルな世界」をネットワークでつないでサービスを提供することで、様々な産業分野に対して「実践知」を供給していく。

「Human Centric Intelligent Society」の概念図