映画やCMでの映像表現
X-Ray氏が最も力を入れている手法は、簡単な入力で多彩なアニメーションを表現できる「プロシージャルアニメーション」だ。このアニメーションの特徴は、ノードベース(ツリー構造)のシステムによる行動制御・管理のしやすさと、パーティクル(霧や土ぼこりなどモデリングしにくい物体を表現する)やダイナミクス(物体のたわみやしなりの度合い)などの表現に適していること。X-Ray氏曰く、プロシージャルアニメーションを行うためのお勧めするツールは「HOODINI」、「TOUCH DESIGNER」、「Massive」、「ice」などだという。 そして、この手法を応用させて制作したのが、ロビン・ウイリアムス主演の映画『奇蹟の輝き』(1998)。本作品では、幽霊として登場する人物の"ぼけ"加減を、ストーリーのラストへと近づくにつれ薄くしていく必要があった。そのパイプライン構築において、プロシージャルアニメーションの工程が、"一度手続きを作ってしまえば多くの素材にも対応させられる"という点で参考になったのである。
また、15秒のシーンを3カ月もかけて制作したという映画『トータルフィアーズ』(2002)では、一瞬の爆発シーンにも関わらず、細かく分割されたセットを実際に撮影した実写素材とCG素材の多層レイヤー構造が組み合わされていることや、実写部分にも風を起こす大砲やワイヤー技術が用いられていたことを説明。「この短い場面にどれだけ多数の要素が詰まっているかわかってもらえたかと思う」と、映像制作の大変さやチームの協力が不可欠だったことを語った。 そのほか、アイビームのエフェクトを担当した映画『X-MEN 2』や、クラウドアニメーションを用いた「バドワイザー2003-2005」や、CGと実写の合成による「キャデラック」、「日産インフィニティ」、「ナイキ(マグネット編)」など多数のCM作品も紹介。会場では、X-Ray氏の圧倒的な表現力を目の当たりにすることとなった。
現在のCG制作環境
X-Ray氏は、本セミナーでCGソフトやシステムなどのテクニカル面についても解説を行い、メインソフトである「Massive」の長所のほか、DREAMWORKSで利用したクラウドアニメーション用システム「Mob」の先進性などを紹介した。特に「Mob」の処理構造に関しては、「有限状態機械(finite state machine/FSM)」(ふるまいを定義づける計算モデル)理論との類似性や行動制御上の仕組み、またクラウドアニメーションと手付けアニメーションの合成を可能にするDCC(ダイナミッククラウドキャラクターシステム)についてなど、技術者X-Ray氏ならではの、より専門的な内容となった。
さらに、ロープブリッジのエフェクトを担当した映画『カンフー・パンダ』(2008)では、ロープブリッジが「MAYA」のWrapデフォーマーを用いた精細な制御が行われていることや、橋の揺れなどの動きはプロシージャルアニメーションで制御したことなどを語った。これらの話しから、ハリウッド映画の高いクオリティは、土ぼこりや塵、煙や破片など一見目立たない部分にまで精細な処理が施されていることで生まれるものということがわかるだろう。
セミナーの後半に行われた質疑応答では、ハリウッドで活躍するX-Ray氏に直接対話できる機会とあって多くの質問が挙がった。中でも「モチベーションが下がったらどうしますか」という問いに対し「モチベーションが下がったとしても100%の力を出せるのがプロ」という回答は、第一線で活躍するCGクリエイターとしてのプロ意識を明快に示しており、非常に印象的だった。最後にX-Ray氏からCGクリエイターを目指す学生たちに向けた優しくも厳しい言葉が贈られた。
「チャンスを掴むことが大事です。それまで雑用ばかりだった私が、映像に携わるきっかけとなった映画『インタビュー・ウィズ・バンパイア』だって、その場にいて一番最初に手を上げたからできたこと。SIGGRAPHに行けなかったからこそ、レタッチに携わることができたんです。こんなふうに、もし悪いことがあってもチャンスに繋がる場合はたくさんあります。常にアンテナを張って、モチベーション高く一生懸命働いていれば、自ずとチャンスは見えてくるはず。他人から自分に与えてもらうのではなく、自分自身のためにがんばってください」
なお、X-Ray氏は、12月16日~19日まで横浜で行われる、CGアーティストを目指す学生のみならず、現役のCG制作従事者にも欠かせないイベント「SIGGRAPH ASIA 2009」でも、講演を行うとのこと。