ユビキタスは11月10日、組み込みシステムの起動時間の短縮が可能な新製品「Ubiquitous QuickBoot(QB)」を発表した。

ユビキタス 代表取締役社長の川内雅彦氏

同製品の発表にあたり、同社代表取締役社長の川内雅彦氏は、「これまで、さまざまな製品を提供してきたが、今回、顧客の視点に立ち、我々として何ができるのかをポイントに製品ラインナップの再構築を行った」と語り、小さなデバイスを作るためのプラットフォームとして自社製品を位置づけ、「小さく、軽く、速いという基本性能はそのままに、さらに単機能ネットワーク向けに特化することで、より"小さい"ものを目指す」と語る。

特に、ユビキタス社会を実現するための要素技術として、「24時間稼働が前提のハードウェア」「高機能化が進むデジタル家電」の2つを提示。「こうした機器では、起動時間や待機時間で消費される電力が相当な無駄となる。特に、現在のデジタル家電やPCは電源を切って、新たに立ち上げる場合、相当な時間が必要となる。また、ハイバネーション状態では、見た目は電源が落ちているように見えるが、その実、電力を消費しており、その金額は、テレビとレコーダだけで平均50W程度、これを年間換算すると約1万円となり、日本の総世帯数約4,900万世帯で掛け合わせると、単純計算だが日本全体では4,900億円が無駄になっている。これだけの電力をCO2にすると、全世帯で年間約820tの削減効果につながる」とそうした機器に対する低消費電力化により地球温暖化対策にもつながることを強調する。

11月18日より開催される「Embedded Technology 2009」では低消費電力ということで、CPUを使用しないで、通信プロトコルスタック、アプリケーションを無線LANチップ内に入れ込んだ「Twitter専用端末」なども展示予定とのこと

一般家庭の家電製品が待機時に消費するCO2は相当なものになるという

ユビキタス 開発部長の橋本健一氏

従来のハイバネーション方式との差異について、同社開発部長の橋本健一氏は、「従来のハイバネーション方式では、メインメモリからストレージ(主にフラッシュメモリ)にデータを退避させて、復帰するときはそのデータをすべて読み取っていたために時間がかかっていた」と従来のハイバネーション方式の欠点を指摘、「QBでは、コードの局所性を重視し、必要な部分のみを優先的に読み込むことで、起動を高速化することが可能となる」とする。

また、起動時間についても、「従来は、メモリサイズが大きくなれば退避、復帰のために長い時間が必要とされていたが、QBでは、ソフトウェアそのものの容量の大きさのみに依存していることから、メモリサイズが肥大化しても一定の速度で起動することが可能」(橋本氏)とする。

QBの特長と従来のハイバネーションとの差異点

具体的には、独自開発のエンジン「Intelligent Resource Allocator(IRA)」をカーネルに割り込みで入れることで、動作イメージを保存した状態をスナップショットして起動時に要求される部分のみを自動でピックアップ。その後、残された部分を順次起動していくという方式により、アットマークテクノの「Armadillo-500FX」にAndroidを搭載したもので、電源投入からGlobalTimeの起動までが約1.3秒、GLSurfaceViewの起動までが約1.4秒、AnimateDrawablesの起動までが約1.4秒(RAMイメージサイズは128MB、イメージ非圧縮、XIP未使用)を実現したという。

Intelligent Resource Allocator(IRA)を用いることにより、高速起動を実現

復帰のためのイメージをフラッシュメモリ側で有していれば、コールドブートもハイバネーションも同様に高速起動が可能だという。

実際に、同発表会にて披露されたデモでは、通常のハイバネーションからの復帰が15秒程度必要であったのに対し、ほぼ1秒程度の高速起動を実現していた。今回のデモはARMコアでの対応だが、MMU(Memory Management Unit)のあるCPUであれば、対応可能としている。

動画
橋本氏が持っている方がQBを搭載したArmadillo。アシスタントの女性が持っている方が通常のハイバネーションを行ったArmadillo。電源を切ってから起動するまでの時間差に注目(wmv形式 3.16MB 25秒)
Armadilloによる別のデモ。起動直後に特定アプリを起動させることも可能(wmv形式 4.56MB 36秒)

なお、同製品の販売は2010年度を予定しており、川内氏は、「既存の家電メーカーや半導体メーカーは従来どおりのお付き合いをさせていただくが、それ以外、エコロジーといった観点や高速起動といった部分を付加価値として感じていただける新たな分野を見つけて、世の中に提供していけるようなパートナーを見つけるための期間」としており、同技術を世の中に問うものとして幅広い分野でのパートナーシップを組んでいければとしている。

顧客の要求に応じた製品の組み合わせなどを提供することにより、「顧客と一緒になってユビキタス社会を実現していきたい」(川内氏)とする