三洋電機は9月18日、従来の半分以下となるセル厚み98μmで、セル変換効率22.8%を実現した独自構造を採用したHIT(Heterojunction with Intrinsic Thin layer)太陽電池を開発したことを発表した。

2枚ならんだ左が5月に発表した変換効率23.0%のセルで、右が今回開発された98μmのセル(曲げた状態で手で持っても問題ない)

HIT太陽電池は、発電層のc-Si基板表面にa-Si層を積層することで、キャリア(電荷)の再結合損失を低減することで高い開放電圧(Voc)を得ることが可能な太陽電池。これまでも、2009年5月に実用サイズで変換効率23.0%を達成するなどの成果がある。

従来の結晶系太陽電池の構造(左)とHIT太陽電池の構造(右)

三洋電機 研究開発本部 アドバンストエナジー研究所 ソーラーエナジー研究部 部長の丸山英治氏

一般的に太陽電池の変換効率は「電流(Isc)×電圧(Voc)×F.F.(曲線因子:Fill Factor)で決まるが、各パラメータはトレードオフの関係であり、そこからいかに脱却するかが高効率化の鍵となる」と同社研究開発本部 アドバンストエナジー研究所 ソーラーエナジー研究部 部長の丸山英治氏は語る。

今回開発されたHIT太陽電池は、デバイス設計時に電圧を重視する構造を選択することで、セルが薄くなった際にVocが上昇する条件を解明、従来の0.729Vから0.743Vに高電圧化することに成功したというもの。具体的には、単結晶(c-Si)層の上に多結晶(a-Si)層を形成するHIT特有の構造による表面欠陥の減少ならびに、a-Siを高品質化、界面に存在するSi原子の未結合手(ダングリングボンド)をa-Siに含まれるH原子と結合させ、電荷と結合することを防いだという前回の成果を発展させて対応した。「何故電圧を高くしたのか、と言われれば、夏場の実環境を考えると強い日差しに強くなる」(同)ということを丸山氏は指摘する。日差しが強いとそれだけ光がセルに降り注ぐため発電効率が高くなりそうであるが、基本的に太陽電池は高温になると出力が低下してしまうという問題がある。「太陽電池の性能は25℃の環境で測定されたものが基本だが、実環境では70℃や80℃に達する場合もある。電圧を高めることで、こうした環境でも発電が可能になる」(同)という。

高電圧化を実現する接合技術の概要

また、同太陽電池はSiウェハが光を吸収し発電層として機能するため、セルを薄型化すると、そのウェハも削られることとなり、結果、光の吸収量も減少、Iscの低下が引き起こされてしまうが、今回、a-Siの表面形成プロセスをコントロール(厳密にはc-Siの表面もエッチングなどのプロセスでコントロールするとしている)し独自の凹凸を形成、その構造がプリズムのように照射された光を斜めに結晶層に流すことで、セルで吸収される光量を向上させたほか、透明導電膜(TCO)層の結晶サイズを大きくすることでキャリア移動度を向上させたことで、光の分光感度を広い範囲で高めることに成功した。

a-Si層の表面最適化とTCO層の改質により吸収される光量を高めた

こうした技術を取り入れることで、セル厚み98μmで38.8mA/cm2(産業技術総合研究所による測定結果)へと高めることが可能になったするほか、Vocは23.0%を実現したHIT太陽電池の0.729Vから0.743Vへと引き上げることに成功している。ちなみに、自社測定では、Iscをセル厚み85μm時で37.3mA/cm2を実現しており、「実際には70μmまで試験的に削ってみたが、いずれも取り扱い次第でセルに割れが生じることがあり、100μmを切るという意味で98μmで産総研での測定をお願いした」(同)としており、技術的には薄くしながら性能を維持することは可能との見方をしめしている。

厚みを98μmにしても変換効率22.8%を実現

なお、今回開発されたセルサイズは約10cm角(100.3cm2)であり、研究レベルとしているが実用も可能な大きさ。ただし切り代(カーフロス)がセルの厚みに比べて多く発生するため、そのまま量産にはまだ適用できないとしているが、「部分的な技術は現在の量産ラインに順次適用していく」(同)としている。また、薄くなったことで、薄膜系などが得意としていた曲面のパネルも可能となっており、「こうした新規アプリケーションへの適用についても検討していければ」(同)としている。