東北大学は、走査トンネル顕微鏡-電子スピン共鳴分光(STM-ESR)装置の検出制度を向上させることで、室温で原子レベルの精度でスピンの位置決定と化学分析を行う技術を開発したことを明らかにした。

同研究グループは、STM-ESRで試料と探針の間に流れるトンネル電流量がスピンのスリコギ運動と同じ周波数で増減することに注目、精密測定が可となるよう装置に改良を行った。同改良装置により単一スピンを原子レベルで検出し、同時にg値を測定することでスピンを用いた化学分析を行うことに成功したというもの。

STM-ESRの原理図(左が、磁場の中に置かれたスピンSがラーマー歳差運動を行っている様子を示す図。運動をやっている場所にトンネル電子がSTM探針から入射されるが、トンネル電子のスピンσとSとの回転関係でトンネルのしやすさに変化が生じる。右が、トンネル障壁のエネルギーの差を反映して、トンネル電流に増減が見られる様子)

検出したスピンはSiの極初期の酸化膜に存在するSiのダングリングボンドと呼ばれる不対電子に由来するもので、従来、初期の酸化状態では酸素原子が最表面Si原子と固体側の二層目との間に入って結合する場合と真空側で結合する場合があり、後者の場合にはダングリングボンドが消滅してスピンもなくなると考えられていた。

今回、改良した装置による観察では、予想していたとおり前者ではスピン信号を検出したが、後者では検出されないことが確認された。また、前者の周辺のSi原子でストレスに起因すると思われる大きなg値のシフトが検出され、これにより化学環境の違いを単一スピンの周波数から分析できることが判明した。同結果は、室温において原子分解能でスピンの位置決定と化学分析が可能であることを示した最初の例であると同大ではしている。

STM-ESRを用いたSi(111)7×7表面の期初値の酸化表面観察とヒストグラム

なお、同大では、同研究成果について、弱い外部磁場を印加する以外には特別に外場を必要としないため、STMでの用途に限らず固体素子との相性もよく、トンネル接合を持った固体素子に組み込まれてスピンを検知する手法としても用いられる可能性があるとしている。