アドビのプロ向けビデオ編集ツール「Adobe Premiere Pro CS4」は、現在の最新バージョン4.1において「REDカメラ」との互換性が向上している。映画の現場などで注目されるREDカメラへの対応強化について、また、4月に米国で発表された新ツール「Adobe Story」について、同社Dynamic Media Product Management シニアディレクター・Simon Hayhurst氏に話を訊いた。

Premiere ProとREDカメラの連携

米Adobe、Dynamic Media Product Management シニアディレクター・Simon Hayhurst氏

「REDカメラは革新的な技術であると言われているが、最終的には(映像の)品質を良くしていくための増分の技術」とHayhurst氏は語る。その上でHayhurst氏は「REDにより、映像は(フィルムを使っていた過去の)映画の時代に立ち返る」と指摘する。「20年前の撮影では、照明だけを気にしていればよかった。ほかはポストプロダクションで処理されていたのであり、REDカメラは基本的にそれ(ポストプロダクション)と同じなのです」。REDカメラによって、ソフト側で照明位置を変えたり、補正をかけたりというポストプロダクションの作業が自由に行えるというのだ。このようなREDカメラの特長を生かすために、Premiere Proでは「世界有数のREDのワークフロー」を実現した。Premiere Proでは、REDのファイルを「ネイティブに、フレンドリーに扱うことができる」とHayhurst氏は語る。

たとえば4Kのフル解像度だけでなく、1/16の解像度で再生することのより、より軽快にPremiere Proで画像処理を行うことができる。また、REDカメラで2時間の映像を記録し、外付けドライブ経由でノートPCを使って現場で編集作業するといったような事もあるそうだ。

Premiere Proでは、REDカメラの撮影データをタイムライン上に配置し、ほかのカメラのデータと並べることもできる。フル解像度でのリアルタイム再生はできないが、処理自体はリアルタイムに行われる。Hayhurst氏によれば、こうした機能が実現できたのは、REDカメラの開発者であるJim Jannard氏とAdobeとの間で、「編集のあるべきビジョンを共有できたからだ」と語った。なんと、Adobe側はREDのPremiereプラグインのソースコードに直接アクセスできるようになっているというのだ。

Adobeのワークフローを実現する「Adobe Story」とは?

「Adobe Story」とは、今年度末にβ版が登場する予定の新たなツールだ。現時点では日本語のサポート予定はないとの事。Adobe Storyでは、映画やドラマの脚本のテキストデータを読み込み、編集することができる。台本はXMLとして書き出すこともできる。このAdobe Storyの要は、「脚本の各シーンにある登場人物や台詞、背景などをメタデータとして、映像のデータと連動させる部分にある」とHayhurst氏は言う。

まずはAdobe Storyに脚本のデータを読み込む。すると脚本に書かれているすべてのデータに対して検索や編集が行えるという。これをPremiere Proに含まれる「現場での撮影ツール」である「OnLocation CS4」と連携させることで、撮影時に台本のテキスト情報が映像にメタデータとして関連付けられることになる。こうして撮影された映像をPremiere Proで読み込むと、そのメタデータも読み込まれるという。

映像とメタデータが同期しているので、この機能には様々な活用法やメリットが考えられる。まず、映像編集作業がこれまでとは格段に効率化されることが容易に想像できる。また、制作者だけでなく、視聴者側にもメリットがある。例えば視聴者が、映像の脚本データから観たいシーンを検索したり、特定の登場人物が映っているシーンだけを検索したりと、様々な利用法が考えられる。脚本が同期するメタデータとして映像に埋め込まれることで、コンテンツの形態自体が変わる可能性も秘めているのだ。Adobe Storyは、今後はコンセプトに従って機能を進化させ、まずはβ版からリリースしていくとのことだ。

Premiere Proを中心とした映像編集ワークフローの限りない進化は、近い将来、映像コンテンツのあり方、楽しみ方までも変える可能性を感じさせてくれる。

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撮影:岩松喜平