半導体ファウンドリの台湾Taiwan Semiconductor Manufacturing(TSMC)は7月6日、記者会見を開催し、同社Vice President,Research & DevelopentのJack Sun氏が同社のR&Dに関するアップデートを行った。

TSMCのR&Dに関して説明を行う同社Vice President,Research & DevelopentのJack Sun氏

同氏はTSMCのR&Dの現状について、「景気が低迷しているが、TSMCではR&Dの費用を抑えるつもりはなく、むしろ積極的な投資を推し進めている」と語る。

具体的には、人的資源の投資として、現状プロセスR&DとデザインR&D合わせて約1,800名いる研究スタッフを30%増員する。また、こうした分野の研究開発費用についても、前年比で20%の増額が実行されるという。

こうした背景をSun氏は、コンシューマ市場の拡大にあるとする。「日本のメーカーが強い基盤を有するコンシューマ分野は、現在さまざまな機能を持った機器が1つにまとまり始めている」(同)であり、いわゆる「3C Convergence(convergence of content、computers and communications)」が進んでいるとする。こうした機器の登場により、実用的に機器を使う人のほか、「他人に見せるために持ち歩くというような人もおり、こうした現象は国の経済の発展の度合い関係なしに起こっている」(同)というのがトレンドであり、こうしたトレンドに対応するためにはSoCがチップレベルのみならず、システムレベルにおいて並列アーキテクチャなどを伴ったさまざまな機能を実現する必要があるとする。

さまざまな機能を持つ機器が1つに集約され、しかも持ち運びが可能となる

そのためには、これまでもTSMCではCMOSロジックプロセス以外の多様なプロセスを提供してきたが、「これまで以上に幅広いニーズに対応できるようなテクノロジーを取り揃える必要がある」(同)わけで、ムーアの法則に従う方向としては40nmプロセスの適用領域をロジック分野のみならず、エンベデッドDRAMやミクスドシグナルといった分野に拡張していくほか、More Than Mooreの方向としては、パワーICやアナログ半導体といった分野への開発投資を拡大していくとする。

縦軸がMoore's low方向の軸、横軸がMore than mooreを示す軸(上に行けばいくほど微細化し、横に広がるほどCMOSロジックプロセスからかけ離れていく)

こうした開発体制を維持するための人員増であり、その結果として開発チームも従来のCMOSプロセスのみであったのが、「Mr.ABCD(MCU/MEMS/RF/RF/Analog/BCD power/CMOS Image Sencer(CIS)/Display)の開発に専念する部隊ならびにパッケージ統合技術の開発に専念する部隊の3つに分かれた」(同)という。

特に同社ではアナログ部分を重視していく様子を見せており、CMOSを核とし、その周辺を高機能化のためのテクノロジーで囲み、さらにその外郭をアナログ情報を取り込む部分としてのMEMSやミクスドシグナル、CISなどで固め、あたかも人間の脳の機能を担うようなシステムの構築を掲げている。「こうした機能の実現には、パッケージ技術の進化などを実現する必要がある。そうしたことを実現することで、SoCをさまざまな部分に応用させることができるようになる」(同)としており、さまざまな外部とのインタフェースとしてのアナログ技術を実現することで、こうした脳の機能向上を加速させていきたいとする。

すでに各所で語られている感があるが、SoCの行き着く最終目標は人間の脳の機能と同様のことができるようにすることだという

SoCの中心部分となるCMOSロジックプロセスについては、当初の予定通り2010年より提供を開始、サンプル出荷や少数生産を経て、2011年には量産を開始する予定としている。また、同社Fab12のフェーズ4に合わせて4号棟に22nmプロセスのパイロットラインを投入する計画を明らかにした。

28nmプロセスで試作した64MビットSRAM(歩留まりは現状2桁に達しているという)

プロセスの微細化で気になるのが露光技術だが、同社は同日、仏CEA-LETI(原子力庁電子・情報技術研究所)が行っているマスクレス・リソグラフィとしてマルチビーム電子ビーム(EB)を用いた研究開発プログラム「IMAGINE」に参加することも明らかにした。期間は3年間で、ツール評価、パターニングとプロセスの統合、データ処理、試作およびコスト分析などが行われる予定で、EUVと並行してその可能性を探っていくとしている。

22nm以下の微細プロセスではマルチビーム方式のEBかEUVがArF液浸と並んで検討されることとなる

このほか、300mmのTSV対応パイロットラインを2009年中に稼働させる計画があるほか、450mmウェハへの対応に関しては、「ウェハの大型化は、ムーアの法則に伴うコスト削減のために必要となるもの」(同)であり、プロセスの微細化による取れ数増加などと併せて、年率25-29%のコストダウンを実現していくために、2012年の終わりまでに量産適用が可能かどうかの機能検証を実施するとした。

なお、Sun氏は最後に米大統領の言葉を一部借用し、「Yes, we can! Let's collaborate to shape the future and win together」と語り、カスタマなどと協調することで成長していくことを強調した。