燃料電池はまずインフラ整備から

燃料電池も自動車向けの電池として開発が進んでいる。燃料電池は、エネルギー密度においてリチウムイオン電池の10倍高くなる可能性があると言われているが、これは理論値であり、これまでの実績では携帯機器向けのDM(ダイレクトメタノール)方式の燃料電池はリチウムイオン2次電池製品の2~3倍程度、電池が長持ちする程度である。メタノールカートリッジの航空機内持ち込みが各国で続々許可されているため、携帯機器やデジカメ、ノートパソコン用には実用化は始まりつつある。

自動車向けはDM方式ではなく直接水素ボンベから水素を供給する方式であるため、リチウムイオン電池との単純な比較はできない。自動車向けのリチウムイオン電池が完成してからの比較となる。

燃料電池車は1990年代から開発が始まり、2000年に入り自動車メーカー各社はすでに試作車を数台持っている。燃料電池車には水素ボンベを搭載する必要がある。水素の量が多ければ多いほど走行距離は伸びるが、ボンベの体積が大きくなってしまっては自動車がボンベの塊になってしまう。このため、ボンベの体積を増やさずに水素の量を実質的に増やす方法が求められている。その1つ、従来の35MPaから70MPaへと充填する圧力を増やす動きがある。水素吸蔵合金の実現はまだ夢のまた夢である。

トヨタ自動車の「FCHV-adv」は156リットルのボンベに水素を70MPaで充填し830km走行したのに対して、本田技研工業(ホンダ)の「FCX Clarity」は171リットルボンベに35MPaで充填し620km走行したという結果がある。現在は実証実験やリース販売している。リース販売するのは車両価格が1億円を超えるとも言われ、売りきりのビジネスモデルが使えないためである。ただし、日本自動車研究所の見通しでは、2015年に初期導入され、2020年に本格普及するとみている。

燃料電池車ではカギとなるのは水素をクルマに供給するインフラ、すなわち水素ステーションのネットワーク建設である。今のところ、ステーション内で水素を作るオンサイトとタンクローリーで水素を運ぶオフサイト方式があり、それぞれ運用実験中だ。

太陽電池はシリコン薄膜タイプが今後1歩リードへ

経済産業省がソーラーパネルの購入者に補助金を与え、しかも太陽電池で発電した電力を電力会社に買い取ってもらうという制度を1990年代に始めて以来、住宅へのソーラーパネルの設置は急速に広まった。家庭の屋根の上に設置することから最も安全なSiの単結晶あるいは多結晶のセルを使うようになった。太陽電池からの光を電流に変える変換効率はGaAs半導体の方が高いが、値段も高い上、火災などの温度上昇によりGaAsが分解してしまえばAsが住宅地に飛び散ると死者が出る危険性が出てくる。Siはそのような心配はない。

単位面積当たりの発電量、すなわち変換効率の最も高いソーラーパネルを販売している三洋電機の販売代理店、新エネルギー開発エンジニアリングのWebサイトによると、モジュールを24枚使った時の面積は30.6m2となり、モジュールの発電能力は5.04kWある。この年間発電量は5891kWhにもなる。このモジュールは19.7%の効率を誇る。効率が悪ければ、発電するパネルの面積をもっと広げなければならない。日本の狭い家屋では効率の悪さは受け入れられない。

三洋電機のソーラーパネル性能の例

これからの太陽電池として、重い結晶半導体に代わって、パネル重量が軽く、コストも安い薄膜型太陽電池の開発競争が始まっている。ただし、効率がSiの結晶よりも低いため面積は結晶系太陽電池よりも増える。しかし、薄膜太陽電池の開発ではa-Si、4元系化合物元素(CIGS)、そして色素増感型と3種類の薄膜電池が争っている。

a-Si薄膜の効率はかつての5%から最近は10%近くまで行くようになった。さらに、a-Si薄膜の太陽電池を作る製造装置を米Applied Materials(AMAT)が昨年から出してきており、液晶ディスプレイで培った大面積で均一な特性を得られるa-Si太陽電池は、他のコンペティタと比べ一歩リードしており、実用化は間近になっている。

これに対して、4元の元素を混合するCIGS(銅・インジウム・ガリウム・セレン)を利用する半導体や、色素増感型も提案されているが、実用化はまだ程遠い。試作データで効率が高くても大面積となると均一性が悪く効率もぐっと落ちてしまうのである。CIGSはホンダが試作しているが、均一性についてはまだまったく解が見つかっていない。また色素増感型は多孔質の酸化チタンとヨウ素を含む電解質を使い光反応させるものだが、これも均一性に関するデータはまだ公表されていない。均一性を上げ広いパネル全面を一様な材料で構成しなければ電力素子としてはホットスポットによる電流集中が起き、危険な状態になる。均一性を上げることは量産に向けた絶対条件になる。

太陽電池のビジネスは、まだ補助金頼みでビジネスとしては独り立ちしていない。欧州でドイツやスペインが政府の補助金によってソーラーブームが2~3年前からやってきたが、昨今の世界的な経済不況で補助金を減らしたとたん、売れ行きが鈍った。日本でも数年前に経済産業省の補助金が廃止されたとたんに、ソーラービジネスは年率マイナス20%で衰退していった。今年は、補助金を復活させたことで、またプラス成長に転じている。