PVの映像表現の可能性に衝撃を受け映像の世界に

――東さんは、どのように映像クリエイターの道に入られたのでしょうか?

東「元々、僕は絵が好きでイラストを描いてたんです。その絵を動かしたいなというのが原点でした。学生時分、18歳のときにAfter Effectsに出会って"なんだこれは?"と驚きました。当時は、『Photoshop』で1枚1枚絵を描いて、『Director』というソフトで並べてアニメーションを作っていました。After Effectsを使ってみたら、最初の点と最後の点を決めるだけで簡単にアニメが作れることがわかって、それからのめり込みはじめたんです」

――PVのお仕事が多いようですが、どういうきっかけでPVの映像を手がけるようになったのですか?

東「10代の頃にスタジオ4℃の森本晃司さんが制作したケン・イシイの『Extra』のPVに衝撃を受けたんです。こんな表現が、PVで出来るんだと感動してしまって。そこからPVを制作しはじめたんです」

――作品創りを始めて、苦労した思い出などはありますか?

東「自分で作画して、アニメーションを制作していくということは、なかなか出来なかったんです。絵を1枚1枚描いていくのが凄く大変で。After Effectsで絵を動かしたとしても、人物自体を動かせるわけではないですし。だから3DCGを勉強して、しっかりとストーリーがあるものを描きたいなと思いました。それで、『Maya』を勉強しはじめたんです。フォトリアルヒューマンみたいなモデリングをして、そのリップを動かして、演技をさせ、ひとつのお話しを作っていきました。ちょうどその頃、海外で制作されたクリス・カニンガムとか、ミシェル・ゴンドリーといった映像作家たちの作品に出会いました。彼らの作品を観て、アニメよりも実写で撮ったほうが早いと確信したんです。"自分はなんで筋肉、上腕二頭筋とかコツコツ作ってんだろう"と思って(笑)。そこでCGに対する熱がパッと冷めたんです。といっても、自分はそれまでCGしか制作してこなかったので、ゲーム会社を就職先に選びました。それで1年半程度、コナミで働いたんです」

初仕事でいきなり映像ディレクターに

――ゲーム制作のスタッフから、どのようにして映像作家への道が開けたのでしょうか?

東「手描きのアニメーションとAfter Effectsを使ってお話を作ったんです。それがあるコンテストに入賞したのですが、そのコンテストの審査員に映像作家の中野裕之さんがいらして、自分の作品を気に入ってくれたんです。留学して3Dを学んでから、帰国してコナミで働いて退職後、中野さんに連絡を取って"やっぱり僕は映像がやりたいんです"と伝えました。そしたら、中野さんが『ドーベルマンDVD』という布袋寅泰さんのPV集の中の1曲をディレクションするという仕事を与えてくれました」

――それは、幸運というか凄い事ですよね。

東「そうですね。初めての自分の仕事がいきなりディレクション。当時、僕は実写が撮れなかったから、全部自分で絵を描いてそれをAfter EffectsとかMayaで配置して、作品を仕上げたのですが、それが好評で、少しずつ仕事が来るようになりました」

――今後、手がけてみたいお仕事とかありますか。

東「今はPVを主体に制作しているのですが、PVは日本の映像業界で一番伸びしろがあるジャンルだと思うんです。コマーシャルと違って予算以外の制限は少ないですし、PVは仕事として自由に表現できるメディアだと思います。でも、自分がやりたいのは、物語を作ることなんです。"自分は何故生きているのか"とか自分のヴィジョンや考え方をグラフィック、SFといった手法で表現してみたいですね。ストレートに実写で美しく撮るのではなく、やっぱり自分の持ち味であるグラフィックを活かした手法で、将来的には1本の映画を撮りたいですね」

――具体的なアイデアはあるのですか?

東「全部ネタになってしまうのであんまり言いたくないですけど、要は、ミシェル・ゴンドリー的なことですよね。普通に日常の女の子の1日を撮って、彼女が考えている事をグラフィックで演出してみたり、普通の公園で人を待っているだけなのに、彼女の気分次第でその公園が全然違う場所に見えるとか……。そういったアプローチでしっかりと人物を美しく切り取りつつ、なおかつ自分にしかできないグラフィックを使ってみせたりとか、そういった作品を作っていきたいですね」

――最後になりますが、東さんのようなクリエイターを目指す読者にひと言お願いします。

東「そうですね。何かになりたい、何かを手伝いたいと思っている人は沢山いるのですが、『じゃあ、何か作っているものを見せて』って尋ねると、『いや、まだ……』っていう事が多いんですよ。結局は、常に作品を創る、アウトプットし続ける事が大切だと思うんです。企画を暖めておくのではなくて、考えたことはすぐに作っておく。それを作って他人に見せれば、絶対に見つけてくれる人がいるので、口よりもまず手を動かす。不器用なりにも形にすることがいちばん大事だと思います」

撮影:石井健