組み込み向けOSや開発ツールを提供するWind Riverの日本法人であるウインドリバーは3月5日、報道関係者やアナリストらを集めて最新のプラットフォーム戦略について説明した。同社は2月に主力製品の最新版VxWorks 6.7をリリースしたばかり。ここでは6.7の強化点であるマルチコア対応のほか、開発ツールのWorkbench 3.1での新機能、また今後の拡張機能である仮想化やハイパーバイザのサポートについても言及している。

強化されたマルチコア対応とデバッガ機能

VxWorks 6.7での強化点はいくつかあるが、最もフィーチャーされているのはマルチコア対応だろう。マルチコア対応自体は前バージョンの6.6で行われているが、ここではOS上で複数のスレッドをコアに分散させる形で走らせる「SMP (Symmetric Multi Processing)」が中心だった。6.7ではSMPをさらに強化するとともに、コアごとにOSやアプリケーションを独立して走らせる非対称型の「AMP (Asymmetric Multi Processing)」にも対応する。SMPが負荷分散によるパフォーマンス強化が中心なのに対し、AMPではアプリケーションごとの独立性や運用の柔軟性を提供する。AMPの利用にあたっては専用のアドオンを追加し、SMPとは違うコアとして再構成する形となる。またAMP用のシミュレータやビジュアルデバッガが用意され、複雑な環境上での動作テストが容易になっている。

一方でSMPはタスク処理のスケジューラが改良され、従来よりもマルチタスク処理におけるオーバーヘッドが軽減されている。またマルチタスク処理における高速プロセス間通信「MIPC」の導入により、こうしたマルチタスク処理のさらなる高速化が期待できる。SMPとAMPのどちらが優れているということはなく、用途や運用形態によって適切な形を選択するものだといえる。

開発ツールとしては「Workbench」が提供され、マルチコアプログラミングをサポートする。WorkbenchはEclipseをベースとした開発ツールで、VxWorksがSMP対応を表明したタイミングに合わせてマルチコア動作をモニタリングするビジュアルツールが提供されている。AMP動作時のデバッグは、テスト環境上での動作をエージェント間通信を介して監視するだけでなく、シミュレータを使って開発環境内で再現することも可能。

また最新版のWorkbench 3.1の特徴として、「ダイナミックprintf」をサポートしたことが挙げられる。これはC言語のprintfと同様の動作を行うコードをデバッガ上からプログラム内に埋め込むもので、実行中のコードに影響を与えることなくリアルタイムで動作状況を監視できる。

SMPとAMPの違い

Workbenchからダイナミックprintfを実行する

OSを仮想化するハイパーバイザ

マルチコア対応としてSMPやAMPへの対応を行ってきたVxWorksだが、その先にあるのはハイパーバイザのサポートだ。ハイパーバイザではOSそのものを仮想化し、メモリやプロセッサコア、I/Oなどの各種ハードウェアリソースをハイパーバイザ上で仲介する。運用の柔軟性に加え、パーティショニングによる可用性の向上やシステム統合への対応、さらにはリソース配分の効率化によるパフォーマンスの向上が期待できる。PCやUNIXシステムの世界ではすでに実用化され、稼働実績も増えつつあるハイパーバイザだが、マルチコア対応と並び、組み込みの世界にもようやく導入されようとしている。ウインドリバーでは今年5月以降にハイパーバイザへの対応を正式表明する。

ウインドリバーが推進するハイパーバイザ戦略では、動作マシンである物理ボードの上にハイパーバイザを置き、その上に仮想ボードと呼ばれる環境を構築する。仮想ボードでは本来OSが直にアクセスするプロセッサコアやメモリ、I/Oといったものが仮想的に用意され、その上でリアルタイムOS(RTOS)が動作する形となる。OSが別動作するだけでなく、仮想ボードごとに独立しているため、個々にリブートをかけられるなど、可用性の面での効果が期待できる。また仮想ボードはコアに1対1で対応するのではなく、1つのボードに複数のコアを割り当てたり、あるいは1つのコアを複数のボードで共有することもできる。このあたりの柔軟性がハイパーバイザの魅力だといえるだろう。

ウインドリバー 営業技術本部 第二営業技術部 部長 大石茂幸氏

説明にあたったウインドリバー 営業技術本部 第二営業技術部 部長 大石茂幸氏によれば、当初のターゲットOSはVxWorks 6.7以降を想定しており、今後はLinuxのほか、顧客の要望があればその他のOS環境のサポートも検討していくという。用途としては、システム統合によるハードウェアの削減、既存システムへの新規システム追加、複数の実行環境を立ち上げて処理の負荷分散を行うオフロード処理などを想定しており、すでに一部の顧客に対してベータテストを実施している段階だと同氏は説明する。

ハイパーバイザはIT業界でもいま最もホットな技術であり、PC業界では比較的ローエンドなシステムでも導入が進んでいる。だがミリ秒単位でのレスポンスや安全性を要求される組み込みやRTOSの世界では、ハイパーバイザにもそれなりの精度が要求されることになる。大石氏は「顧客からの要求レベルを吟味しつつ、5月発表の時点でどこまでハイパーバイザに機能を盛り込むのか、現在はその最終的な調整段階」と説明する。またVxWorksの主要顧客が航空宇宙/防衛産業や産業プラントといったこともあり「申請から取得までのタイムラグを考慮して、米政府による認証を取得すべく早めに動いている」(大石氏)とコメントする。

ウインドリバーのハイパーバイザ戦略