東京大学 大学総合教育研究センター マイクロソフト先進教育環境寄附研究部門(Microsoft chair of Educational Environment and Technology Center for Research and Development of Higher Education。以下、MEET)は3月4日、2006年度から3年間にわたり続けてきたプロジェクトの成果発表を行い、「MEET Video Explorer」「MEET eJournalPlus」「MEET Borderless Canvas」の3つの教育向けソフトウェアをオープンソースライセンス(Microsoft Public License、Mozilla Public License 1.1)の下に公開したことを説明した。

発表会の登壇者。左から、東京大学副学長 岡村定矩氏、マイクロソフト 代表執行役社長 樋口泰行氏、東京大学大学総合教育研究センター 特任准教授 望月俊男氏

MEETは、「Knowledge Workerを育成するためのアクティブ・ラーニング環境の研究開発」を目的として設立された研究機関。マイクロソフトから3年間で1億2000万円の支援を受け、タブレットPC等を活用した先進的な教育環境の開発・評価を進めている。

そのMEETがアクティブ・ラーニングを具体化したモデルとして挙げるのが「問題発見・深化型の学習活動」だ。同機関では、そのプロセスを以下の4つに細分化し、それぞれの作業を効果的・効率的に進めるための3つのツールを開発・評価した。

  1. 問題関心の同定
  2. 問題関心を深める
  3. 資料を読む・書く
  4. 伝えてふりかえる

問題発見・深化型学習活動のプロセス

映像を活用して能動的に学習
- MEET Video Explorer

上に列挙したプロセスの1と2において活用するツールとして開発されたのが「MEET Video Explorer」(以下、MEET VE)である。

MEET VEは、映像アーカイブの中から目的のものを見つけ出し、自分なりに情報を整理するためのソフトウェア。映像データにメタデータを付与する機能や検索機能、視聴履歴記録機能、ブックマーク機能などが用意されているほか、視聴しながらタブレット機能を使ってメモをとることもできる。

MEET VEの画面。左側に検索結果が現れ、目的のものを選択すると右上のスペースで再生される。右下にはメモを記述するスペースも

メモの作成画面。タブレット機能を使って、図を描画したり、文字を入力したり、スクリーンショットを挿入したりすることができる

MEETでは、同ソフトウェアを使い、映像を自分で探索しながら能動的に学習した場合と講師が紹介した映像により受動的に学習した場合の効果を比較。その結果、「学生の"問い"が多様になり、主体的・能動的な問題発見が行えていることがわかった」(望月氏)という。

MEET VEを使うことで"問い"が多様になる

文章から的確に情報を抽出し、新しい知識を創る
- MEET eJournalPlus

先に掲出した問題発見・深化型学習活動プロセスの3から4にかけて有効なツールとして開発されたのが「MEET eJournalPlus」(以下、MEET eJP)である。

MEET eJPでは、タブレット機能を使って電子文書にマーカーやコメントを付けることができるうえ、マーカー部分の情報を抽出して直感的にコンセプトマップを描画する機能や、コンセプトマップを基にしたレポート作成を支援する機能などが組み込まれている。また、ネットワーク(eJournalPlus ServerあるいはWindows Live@edu)を介して相互にコメントを付け合うことも可能だ。

MEET eJPの画面(スライド下部)。左画面の文書にマーカーやコメントを付けることができ、それを基にコンセプトマップを描画できる

MEETでは、作図を行って授業を進めるクラスと、作図を行わずに授業を進めたクラスを比較して同ソフトの有効性を検証。その結果、「作図を行ったほうが『課題文の主張の根拠をより読解できるようになる』『自らの意見を根拠づけて述べられ、対話的な意見を構築できるようになる』といった効果が得られた」ことを明かした。

作図を行うことで、「課題文の主張の根拠をより読解できるようになる」「自らの意見を根拠づけて述べられ、対話的な意見を構築できるようになる」といった効果が得られる

新UIの資料閲覧・書き込みツールで理解度が向上
- MEET Borderless Cnavas

MEETでは、問題発見・深化型学習活動プロセスの4から1向けのツールとして「MEET Borderless Cnavas」(以下、MEET BC)と呼ばれるソフトウェアも開発している。

MEET BCは、発表資料(電子文書)を閲覧するためのツール。発表資料は巨大な模造紙のような空間上に各スライドを並べるかたちで表示され、受講者は「ZUI(Zooming User Interface)」と呼ばれる独自のインタフェースにより拡大・縮小しながらそれを閲覧する。複数のスライドを同時に参照したり、数ページ前のスライドを見直したりすることができるという特徴がある。また、資料に対する書き込み機能も搭載されており、講演者・受講者全員で1つの資料にさまざまな書き込みを行いながら講義を進めていくことが可能だ。

MEET BCの画面。発表資料のスライドが広い空間上に一列に並べられており、ZUIと呼ばれるインタフェースにより、拡大・縮小しながら自由にスライドを見ることができる。受講者の書き込みを全員で共有することも可能

画面右下に配置された拡大・縮小用のアイコン。ペンタブレットを使って操作する。右回しで拡大、左回しで縮小

同ソフトウェアを使ってゼミナール形式の授業を行った結果、受講者からは「焦点を絞った議論が行いやすくなった」「スライドを振りかえれるため、内容を理解しやすい」といった意見が多く得られたうえ、発表者からも「聞き手を意識して準備を進めるようになる」「発表に対して能動的・批判的に臨むようになる」などの感想が寄せられたという。

MEET BCに対する意見

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MEETでは、このほかにも全学部の授業をWeb上でカタログ化するプロジェクト「MEET Course Catalogue」や、上記ソフトウェア等を活用したアクティブラーニング空間の創設支援プロジェクトなどを実施。後者では、駒場アクティブラーニングスタジオや福武ラーニングスタジオの開発・運営に関わっている。

駒場アクティブラーニングスタジオ

福武ラーニングスタジオ

なお、マイクロソフトからの支援は今年度をもって「一区切り」つくことになり、MEETとしての活動は終了するが、MEET VE/eJP/BCについては今後も運用・評価を続けていく予定だという。