昨年の原油価格の急騰、昨今の景気減速が反映されたのだろう。米カリフォルニア州サンフランシスコで現地時間の2月9日に始まったInternational Solid State Circuits Conference (ISSCC)のオープニングセッションのテーマは「Leaner and Greener」(よりスリムでグリーンに)だった。NXP SemiconductorsのRene Penning de Vries氏が、ユーザー需要を削ぐことなくイノベーションを実現するビジョンについて語った。

ISSCC 2009のオープニングセッション会場の看板

エレクトニクス産業はこれまで、エネルギーをリソースにひらすら生産性の向上のみを追求し、今日の家電、コンピューティングやコミュニケーション分野の発展を実現してきた。「だが、その方程式は今や通用しない。エレクトロニクス産業は、限られたエネルギーを最大限に活用するという新たな役割を担い始めた」とPenning de Vries氏。例えば、半導体産業がここ数年チップの消費電力や放熱の抑制を追求している理由の1つに、データセンターへの需要拡大が挙げられる。必要に応じて単純にサーバを増やすだけでは、早晩データセンターがボトルネックになる。スペースや消費電力を増やさずに、稼働するサーバ数を増やし、効率性を上げながら需要に対応することで、インターネット産業の長期的な発展を支えられる。そのためには高密度化を実現するプロセッサが欠かせない。

Penning de Vries氏によると、世界の電力消費量の1%削減は、およそ40カ所の発電所を不要にするような規模の取り組みになる。パーツや製品のエネルギー消費を抑えるだけでは不十分であり、"Cradle to Cradle" (完全循環型)の取り組みが求められる。つまり設計から製造においてエネルギー効率性を貫くのはもちろん、使用に至っても、リアルタイムに動作をモニターしながら高度にエネルギー消費を管理できる環境に導く必要があるというのだ。この可能性を、ビル・建物、ディスプレイ、車など様々な例を挙げながら説明した。

潮目の変化を迎えたエレクトロニクス産業

現在、世界では25億台の電力メーターが使われているが、その多くは数十年前から存在するアナログメーターだ。月に一度のペースでしか使用量を確認できないため、データを電力使用量の改善に役立てるのは難しい。だが一部でネットワーク接続型のメーターが導入され、常時モニターしているデータをユーザーにフィードバックするケースが見られるようになってきた。

次のステップはAMI (Advanced Metering Infrastructure)になる。リアルタイムの電力消費を過去のケースを照らし合わせながら、偏った電力需要をインテリジェントにバランシングする。ビル・建物に幅広くAMIが採用されれば、年間10%程度の電力消費削減になるそうだ。また世界で消費される電力の約20%は照明だ。白熱灯を電球型蛍光灯(CFL)やチューブライト(TL)に変えるだけで80%の節約になる。「エジソンの発明を葬るときがやってきた」とPenning de Vries氏。

テレビについては、家電メーカーが薄型・大型テレビへの買い換えブームを演出している現状に警鐘を鳴らした。消費電力という点で、今日のディスプレイは大いに改善の余地がある。RGB LEDを使用すれば、今日の一般的なバックライトよりも最大85%の削減が可能だ。またアンビエントセンサを用いて環境に応じて光量を調節すれば、さらに節約できる。

液体燃料に目を向けると、その消費の50%は輸送に使われている。それにも関わらず、過去30年で車の燃費の向上は35%にとどまっている。自動車産業の場合、一気に電気自動車を検討するような突飛なところがあるという。電気自動車は、それ自体には文句の付けようがないが、電気自動車の比率が上がり、その電力をまかなうために火力発電所の稼働が上昇するようでは"Cradle to Cradle"な効率性ではない。その点で現時点ではハイブリッドの方が効率性で勝る。ただ、ガソリン車であっても油圧システムを電子システムに変え、タイヤなど要所に電子センサを設置して無駄な燃費を避けられるようにモニタリングすれば、さらに5%程度の燃費改善(米国のケース)につながるそうだ。電子システムの採用は軽量化にも貢献する。昨年末に救済問題が議論になった米ビッグ3へのメッセージという意味合いが強いとは思うが、自動車産業は現実的なシナリオを描いてエネルギー効率化に取り組んでいないと指摘した。

半導体産業やエレクトロニクス産業が過去50年にわたってグローバル経済の成長を支えてきたのと同様に、CO2削減や気候変動の抑制など今日の環境問題においても牽引車の役割を担えるというのがPenning de Vries氏の言い分だ。「これからの数十年にわたって、我々はより"Leaner and Greener"にフォーカスしたICイノベーションを目の当たりにするだろう」と予測した。