責任能力の有無などにも関心高まる

陶氏は以下のように、ネット中毒の背後に家庭問題があると主張している。

「ネット中毒は表面的な現象。その背後に心理的な問題がある。心理的な問題の背後にはさらに家庭問題がある。3,000人のネット中毒者を対象にした調査によると、87%のネット中毒者に父の愛が欠如しているようだ。これが、ネット中毒に家庭問題が絡む場合にもっとも多い原因。第二位は溺愛や厳しすぎなど家庭教育上の問題だ」。

多くの人々、特に法曹関係者は、ネット中毒者が診断基準に基づき精神障害者と診断された場合、法的責任能力があるかどうか、法的な免責が受けられるかどうかという問題が争点になると指摘している。

北京軍区総病院は北京市公安局の統計を利用し、青少年犯罪者のうち76%がネット中毒者だとしている。この割合からみると、ネット中毒者を精神障害に分類した場合、その責任能力をどのように問うかの問題は、社会に巨大な影響を与える。犯罪に関わったとされるネット中毒者とその家族が、ネット中毒者の精神障害者分類により、法的な免責を求めるケースがすでに出てきている。

四川省成都の新聞社「成都商報」は、2008年11月11日に診断基準が公表されてから、中国初のケースとして、四川省出身のある青年のケースを報じた。オンラインゲームにふけること3カ月、親の金を盗んでゲーム内アイテムを買った青年は、親にあわせる顔がないと思い込み、親を毒殺してしまった。

法院(裁判所)の一審では、青年に対し、故意の殺人であると死刑判決が下された。ところが診断基準が公表されるや、ネット中毒者は精神障害者であり、したがって責任能力に制限があるという論拠で、被告の家族が、裁判所に青年の精神障害鑑定を依頼したのだった。

青年が精神障害であったかの鑑定はまだ結果が出ていないが、裁判官や専門家からは、仮に精神障害者と診断されたとしても、法的な免責を受けられないとの見方が出ている。

ある裁判官は、ネット新聞「中国新聞網」のインタビューに対し、以下のように答えている。

「一つの病院が作成したネット中毒臨床診断基準が裁判に影響を与えることはありないし、判決結果を左右することもありえない。ネット中毒を精神障害と認定することは、罪名の決定と量刑に影響を与えることになるので、関係省庁や裁判機関などが関連条例や法律を整備し、充分な対処を講ずるべきだ」。

「国家基準」になる可能性もあり

しかしながら、この診断基準を積極的に支持する人々もいる。その大半は、ネット中毒になった青少年の親や教師達だ。あるネット中毒少年の父親は、以下のように診断基準に対する強い支持と期待感を表明している。

「診断基準はもっと早い時期に作成すべきだった。ネット中毒になっている青少年に、ネット中毒が一種の精神障害だと強く認識させ、積極的に治療を受けさせるところに大きな役割を果たすことだろう」。

ある中学校教師は、「精神障害は中国においてタブー。誰も精神障害のレッテルを貼られたくはない。この点からすれば、ネット中毒を精神障害と結び付けた診断基準には、大きな抑止効果があり、ネット中毒の防止や治療に役立つはず」と、診断基準がもたらす効果への期待を寄せている。

現段階では、この診断基準も一つの病院が作ったもので、まだ中国の国家基準として認証されているわけではない。しかし、診断基準がすでに衛生部(厚生省)に提出されたとの報道もある。

言い換えれば、診断基準がすでに国家基準として審査段階に入っていることになるのだ。診断基準の公表だけでも、さまざまな側面から議論を呼んでいることから、国家基準として認定されるかどうかは別にしても、今回の診断基準が中国ネット社会に多大な影響を与えるであろうことは間違いない。