「来年(2009年)いっぱいはこの不況は続くと言われている。そんな中にあって日本企業は、IT投資をいかに行っていくべきか。私は、ITの"足下"を強化する投資を行うべきだと思う」-- 17日、アクセンチュアでテクノロジーコンサルティングの統括を務める沼畑幸二氏は、都内で行われたプレス向け説明会でこう提言した。もともと、企業内にあってITはコストセンターと見なされることが多く、現在の金融不況に突入する前からも、その投資効果について疑問視する声は強い。ただでさえ"金食い虫"と見なされがちなITの、さらにその地盤を強化すべきという意見の論拠はどこにあるのか、沼畑氏は「IT投資の最適化こそがコスト削減につながる」という。

以下、アクセンチュアが実施した「ハイパフォーマンスIT調査 2008」の結果をもとに、同氏による説明が行われた。

「ハイパフォーマンスIT調査 2008」は欧米、アジア太平洋、日本における260以上の主要企業および公的機関のエグゼクティブに対して行われた調査。

日本はCIOよりも業務部門責任者がIT投資の責任を負っている

現在、日本企業でCIO職を置いている会社は、他国に比べ決して多いとは言えない。したがって、「IT支出/投資に対する事業価値を保証する責任を、誰が負うか」という問いに対しては、必然的に「担当部署の事業部長が負う」という回答が多くなる(日本 42%、米国 15%、欧州 13%)。一方、欧米では当然ながら「CIO/CTO職」と回答する割合が圧倒的だ(日本 30%、米国 70%、欧州 67%)。

日本企業にCIO職が少ない事実はよく指摘されることだが、では、日本企業も欧米並みにCIO職を置き、IT投資の権限と責任を与えるべきなのか - 沼畑氏は「必要なのはCIO職よりも、その業務部門が効果を出せるようなITの仕組み」と語る。

同氏によれば、事業部長/担当業務部門長がIT投資の責任をもっていて、かつ、成功している企業にはいくつかの共通点があるという。マニュアル作成など、効果を出すための教育を部内できちんと行っている、また、投資の前段階において、責任者が「効果を出す」ということに強い執着心をもっている、などだ。「カットオーバー以降を見据え、"効果の刈り取り"を行うための準備をしている企業は、IT投資において無駄が生じることが少ない」(沼畑氏)、たとえ事業部立案であっても、責任者の周到な準備と効果創出への気構えがあれば、IT投資が成功につながる場合が多くなるということだ。

先進的テクノロジ採用の遅れがシステム統合の遅れに

だが、IT投資の責任者が担当事業部長の場合、どうしても先進テクノロジの導入が遅くなる。とくにSOAやBI(ビジネスインテリジェンス)、RIAなどの日本企業における採用は際立って低い。同調査によると、SOAに至っては米国 40%、欧州 39%という採用率に対し、日本はわずか7%だ。沼畑氏は「事業部ベースのIT投資だと、ITの足下を強化する方針が採りにくくなる。企業ビジネスにおけるITへの依存度は高くなる一方にもかかわらず、だ」と警鐘を鳴らす。その象徴ともいうべきSOAについては、「流れとして、日本企業はSOA採用に向かっていると思う。だが、顕著なのは新規開発においてSOAを導入する企業が多いことだ。現行システムやレガシーをSOAで積極的に統合しようとする動きは非常に少ない」とする。たとえばメインフレームのリプレースでSOA採用、などはよくあるケースだが、複数の部署間をまたがり、現行システムをSOAで統合、などのケースはあまり見られない。

おそらく、これはSOAに限った傾向ではないだろう。事業部立案のIT投資が多いのであれば、社を横断するようなITシステムを構築しようという発想になりにくいのも仕方がない。だがそれは非常に危険な兆候でもある。同調査によれば、その他、日本企業に見られる特性として

  • アプリケーションポートフォリオがビジネス/テクノロジ双方のニーズに適合していない。とくにR&DとCRMに関してはかなりひどい状況
  • 償却途上のIT資産が多い
  • SOAを含め、システムの内製化を志向しがち
  • インフラの集中化や仮想化による中央管理が進んでいない

などが挙げられている。

コスト削減が声高に叫ばれ、ITへの投資を控える風潮が強い現在、もし本当に盲目的にコスト削減に走れば、日本企業のIT投資もそれによる効果創出も、諸外国に比べさらに遅れをとることになり、ひいては国力低下につながっていく。世界的不況の最中、あえて「ITの足下を強化するような投資=最適化されたIT投資を継続すべき」と同社(沼畑氏)が主張するのも、日本企業の継続的な成長のためには、ここでIT投資をストップしてしまうことはマイナスにしか作用しないと結論づけているからだろう。日本のIT投資をめぐる現状は日を追って厳しくなる一方だが、アクセンチュアからのメッセージは、果たしてどれだけの企業に受け容れられるだろうか。