アイログは17日、「ILOG LogicNet Plus 6.0 XE」の国内提供を開始した。製品ライセンスは1,800万円から。

ILOG LogicNet Plus 6.0 XEは、ILOGが2007年に買収した米LogicNetの主力製品で、工場、倉庫、配送ラインの最適な数/場所/規模/管轄地域などを判断する。また、どの製品をどの工場で生産するか(プロダクション・ソーシング)を判断し、戦略的サプライチェーンネットワークの計画立案を支援する。LogicNetはもともとILOGの最適化エンジンを利用して製品開発を行っていたため、買収製品といっても技術面では既存のILOG製品と共通の基盤から成り立っている。

ILOG チーフ・サイエンス・オフィサー兼マサチューセッツ工科大学教授 デイビット・スミチレビ(David Simchi-Levi)氏

説明は、LogicNetの共同設立者兼会長であり、現在はILOGのチーフ・サイエンス・オフィサーであると同時にマサチューセッツ工科大学(MIT)のエンジリアリングシステムの教授でもあるデイビット・スミチレビ氏が行った。

同氏はILOG LogicNet Plus 6.0 XEの中核機能として「Green Supply Chain」「Network Design」「グリーンロジスティクスモジュール(Carbon Footprint Module)」の3点を挙げた。さらに、市場動向として同氏は、原油価格高騰を受けた輸送コストの削減やリスクマネジメントの観点から同製品が注目される状況になっているとした。

また同氏は、特にヨーロッパではCO2排出量削減には経済的なインセンティブがあると語った。これは排出権取引のことを指しているが、ヨーロッパの2007年の排出権取引市場の規模は400億ユーロ(160円換算でも6兆4,000億円)に達しているとのデータを紹介した。これはつまり、CO2排出量の基準を下回る実績を上げた企業が、基準を達成できない企業から受け取った金額の総計であり、いわば副業的な収入の規模としてはかなり大きいと言えるだろう。

グリーンロジスティクスモジュールでは、米国政府および世界資源研究所(WRI: World Resources Institute)のデータに基づいたデータベースを内蔵しており、燃料の種類別のCO2排出量や平均燃料効率、電力 - CO2排出量係数などのさまざまなデータに基づき、ロジスティクスに関わるさまざまな活動によって排出されるCO2量を把握し、その総量を最小化するようなプランを提案できる。

サンプルとして示されたデモでは、米国内に2カ所の製造拠点を持つオフィス家具製造企業を例に、計画の例が紹介された。従来のロジスティックスの計画では、コスト削減と、配送に要する時間などのユーザーに対するサービスのレベルの間でベストなトレードオフポイントを見つけることが課題となっていたが、グリーンロジスティクスモジュールでは、さらにCO2排出量を加味し、コスト/サービス/CO2排出量の3要素のベストなトレードオフポイントを見つけることができる。

現状として、2カ所の製造拠点と、全米に散らばる200の顧客企業、製造される11種の製品、全米58カ所の配送センター設置候補地を入力、西海岸と南部に2カ所配送センターを設置すると、コストが3%削減できると同時に、顧客までの輸送距離が平均で46%削減できると計算できるという。これには当然、配送センターを設置/運営する場合のコストなども加味されているほか、工場から配送センターまでの製品輸送に要するコストやその際のCO2排出量(鉄道利用を想定)、配送センターから顧客までの輸送のコストやCO2排出量(トラック輸送を想定)などがすべて考慮されている。

より詳細な分析を見ると、配送センターまでの輸送に鉄道を利用するという前提であれば、配送センター数を増やすほどCO2排出量は減るがコストはやや増加する傾向にある、といったことがわかる。その結果、コストとサービスの2要素で考えた場合の最適解は配送センターを2カ所増設することで、この場合最小のコストでサービスレベルを高めることができるが、CO2排出量を加味した場合の最適解は配送センターを4カ所増設するプランで、この場合前者の最適解に比べてコストが1.6%増加してしまうが、配送距離の平均は20%減少し、CO2排出量は11%削減できる、という結果になる。こうしたシミュレーションを人手で行うのは到底現実的とは思えない一方、ILOGの最適化技術は従来からこうしたパズル的な問題の最適解を探すことに強みを発揮していたことから、まさに同社ならではの製品といえそうだ。

サプライチェーン・ネットワーク・デザインの検討。コストを最適化した場合のネットワーク(左)と、サービスレベルを最適化したネットワーク(右)。左では、コスト削減は600万ドルで、40%の顧客には翌日配送が可能。右は、コスト削減は300万ドルに半減するが、翌日配送が可能な顧客が80%にまで増加する。こうした複数のネットワークプランを作成し、比較検討できるのがILOG LogicNet Plux 6.0 XEの基本的な機能となる

シミュレーションの前提となる状況。製造拠点兼配送拠点が2カ所(赤い△マーク)あり、顧客(緑の点)に配送を行っている

コストとサービスに関する最適解の例。配送センター候補地までの鉄道網や、州ごとの電力コストや発電の際に排出されるCO2量など、膨大なデータを踏まえてプランを生成している

CO2排出量を踏まえたトレードオフ・ポイントの検討。グラフの横軸は配送センター数で、現状の製造拠点兼配送センターの2カ所が出発点で、追加で5カ所(計7カ所)設置した場合までを検討している。最上部に水平に近く伸びる青線が総コスト。左上から右下に向かう緑線がCO2排出量。これと重なるように左上から右下に向かう茶色線が、配送センターから顧客までの平均輸送距離。下部右上がりの青線は、配送センター運営に掛かる固定費。コストに注目すれば、配送センターを2カ所追加(計4カ所)した場合が最小になるが、CO2排出量は配送センターが増えるほど少なくなるので、それを加味した最適解は配送センター6カ所(2カ所追加)となる。なお、前提として製造拠点から配送センターまでの輸送はCO2排出量の少ない鉄道を利用し、配送センターから顧客までの輸送はトラック輸送を想定している。この条件が変われば、当然最適解も変化してくる。算定の基礎となるデータは米国内のものが豊富なようだが、国内の状況を反映したデータを追加して提供することも考えているという

アイログ 代表取締役ゼネラルマネージャー 和多田茂氏

なお、アイログの代表取締役ゼネラルマネージャー 和多田茂氏は国内市場について、「対象業種は製造、物流、流通小売をまず想定するが、金融業界から大量の文書の配送のために使えないかとの打診もあり、広範な市場に適用できると思う」としている。同社では、年度内に5社からの受注を目標として掲げている。