「学校裏サイト」関連に大きく押された4月に比べ、5月は著作権法違反から預金不正引き出しまでネット事件の"幅広さ"を示すようなランキングとなった。ネットは犯罪の道具になるだけでなく、犯罪の場としても利用され、さらに犯罪を報道する役割もある。損得にも生死にもネットが関わった、5月の事件簿を振り返る。

2008年5月のネット事件簿 Top10(5/1~5/31※)

順位 記事 掲載日
1位 「Share」ユーザーから初逮捕、「ガンダム00」など無断公開 - 京都府警 5/9
2位 「2ちゃんねる」が発端? 報道で悪循環 - 硫化水素自殺で都が対策検討会 5/12
3位 女性ブログに300回書き込んだ31歳勘違い男逮捕 - 千葉 5/30
4位 ネットカフェでWinny? 真宗大谷派の名簿情報がネット上に流出 5/28
5位 プロフの書き込み巡り女子中学生を暴行、少年2人を逮捕 - 警視庁 5/8
6位 韓国で金融情報大量流出 - 米国人ハッカーと雇用主の韓国人を検挙 5/28
7位 Winnyで自作ウイルスばらまいた大学院生に懲役2年の有罪判決 - 京都地裁 5/16
8位 韓国で米国産牛肉を巡ってパニック、狂牛病怪談がネットに出回る 5/19
9位 【レポート】韓国大規模ハッキング事件の犯人検挙 - それでも不安なネティズン 5/14
10位 ネットバンキング狙いの預金不正引き出しが急増 - 金融庁調査 5/26

※ 各記事の掲載日から1週間のアクセス数をもとにしています。

若さ故の過ちも逮捕、いい大人まで何やってんの?!

酒を飲むなと言われたはずの酔っぱらいが言い訳をして、「飲んでないよ、ビールだよ」。今時冗談にもならない言い訳だが、そんなレベルの話を思い出させるのが今回ランキング1位となったこの事件。Shareを使ってテレビアニメを無断公開していたとして、34歳と41歳の男性会社員および21歳の学生の3人が逮捕されたというものだ。Shareユーザーからの逮捕者は今回が初めてであった点が注目されたのか、ガンダムの名前で一応チェックされたのか、掲載後一挙にアクセスを集めた。

記事によると彼らは長期にわたって不正なデータ放流を続けていたようだ。動機として「他のShareユーザーが喜んでくれるのが嬉しかった」などと供述しているそうだが、もし誰かに「毎週○○を必ず録画しておいて見せろ」と言われてやるなら相当面倒なことのはずだ。人に評価されたと思ってしまうと、それがハリボテでも幻想でも妙なパワーにつながるから怖い。

ファイル共有ソフトというと真っ先に名前が出るWinnyは、開発者の逮捕から多数の著作権法違反・企業等の個人情報流出事件など、多数の報道でその名称を挙げられている。職場等では利用が厳しく禁じられているところも多いだろう。今回逮捕されたうちの1人は4年前からWinnyを使用し、Shareとの併用を経て今年4月からはShareに一本化していたという。機能面での選択だったのか、Shareならまだ風当たりが弱いと思っていたのか……。

コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)が行った調査(2007年12月)によると、近頃ファイル交換ソフトを利用している人がメインで使っているソフトは、Winnyがトップで27.0%。Limewire(18.8%)、WinMX(15.0%)などが続き、Shareは11.0%で5位だ。少数派といえば少数派だが、2位以下に極端な差はない。今回の事件で、Winny以外でも悪質なケースは摘発されることが事例をもって明らかになったわけだ。

ちなみに、同協会による2006年の調査ではWinnyの利用者が33.3%。逮捕者や情報流出事件の影響で減少傾向にあるのかと思われたが、集計方法が異なる(07年は単一回答、06年は複数回答)ため比較はできなかった。ただ、現在利用している人の割合は2006年の3.5%から2007年の9.6%と大きく増加している。「ファイル共有ソフト利用者摘発の報道」を理由に利用を止めている人がいる一方、報道をきっかけに利用し始めた人もいるという調査結果から、ネット社会の皮肉な一面も見られる。

悪循環の防止も必要、でも根本的対策がもっと推進されますように

こちらもネット社会の報道のあり方を考えさせられる記事。東京都が設置した「若者の自殺防止対策に関する検討会」の初会合についての内容で、これ自体が事件というわけではないが、短期間に多くのアクセスを集めたことから、注目度が高かったことがうかがえる。

この会合では現在20代・30代の死因第1位となっている自殺について、連鎖を防ぐための取り組みや自殺防止対策の方向性について検討が行われた。硫化水素の製造方法などの情報を「有害情報」としてISP等への削除依頼が強化されたり、都内の病院などに治療法を記載した対応指示書の周知を行うといった対策が実施されているという。

今年4月以降、硫化水素による自殺が急増していることについては、「2ちゃんねる上に硫化水素自殺に関する書き込み(3月上旬)→ 省庁などを通じて注意を促したり削除依頼をしたりしたが反応なし→ マスコミの過剰な報道によってネット上の情報も氾濫→さらに自殺者増」という悪循環が起きていることが指摘された。手近にあるものが材料になるらしい、という程度の情報はテレビや新聞から得た人も少なくないだろう。同検討会では報道各社が自殺事件の取り扱いに関する自主ガイドラインを策定することを求めている。

都が今月発表した同検討会の提言によると、情報の削除とともに検索サイトにおける結果表示も課題であるとしている。自殺に関連する言葉で検索した際に、相談窓口や自殺防止の情報を掲載したサイト等が表示されるよう取り組んでいる検索サイトもあり、今後は事業者と行政間で迅速な対応を取れる体制を強化する必要性を述べている。

実際にGoogleで「硫化水素」を検索してみると、製造方法などが書かれていると思しきページがニュース検索結果やWikipediaに続いて表示されるが、検索結果には自殺を考えている人に相談を勧める内容のページも1ページ目に表示されている。

自殺防止対策の方向性としては、「悩みの相談や支援を受けやすい体制の一層の充実」「実態を把握すること」、および普及啓発や学校教育を含めた「中長期的視点での自殺予防対策」の3点が挙げられている。ただ情報を排除することより、こちらの対策が実を結ぶことを願いたい。